このページでは、みなし贈与に関する裁判例について整理しています。

みなし贈与に関する裁判例は、主に低額譲渡に関するものと、その他の経済利益に関するものになります。

1 低額譲渡(相続税法7条)に関する裁判例

⑴ 具体的な判断に関する裁判例

仙台地判H3.11.12 代表取締役が同族関係者から自社株を額面額で譲受けたことが、低額譲渡にあたるとされた事例(同種の事案で、同様の判断がされたものとし、東京地判H19.1.31、大阪高判S62.6.16

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同族会社甲社の代表者Xが従業員Aから甲社株式を額面で取得したことにつき、純資産価額方式によって株式の時価を評価し、額面の差額につき低額譲渡にあたるとされた事例

東京地判H19.8.23 路線価での売買が「著しく低い価額」とはいえず、みなし贈与を否定した裁判例

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親族間が路線価(相続評価額)で行った売買につき、みなし贈与になるか否かが争われた事案で「『著しく低い価額』の対価とは,その対価に経済合理性のないことが明らかな場合をいうものと解され,その判定は,個々の財産の譲渡ごとに,当該財産の種類,性質,その取引価額の決まり方,その取引の実情等を勘案して,社会通念に従い,時価と当該譲渡の対価との開差が著しいか否かによって行うべきである。・・・相続税評価額と同水準の価額かそれ以上の価額を対価として土地の譲渡が行われた場合は,原則として『著しく低い価額』の対価による譲渡ということはできず,例外として,何らかの事情により当該土地の相続税評価額が時価の80パーセントよりも低くなっており,それが明らかであると認められる場合に限って,『著しく低い価額』の対価による譲渡になり得ると解すべきである。もっとも,その例外の場合でも,さらに,当該対価と時価との開差が著しいか否かを個別に検討する必要があることはいうまでもない」としてみなし贈与にあたらないとしました。

⑵ 「時価」及び「著しく低い価額の対価」の判断基準について説示した裁判例

東京地判H13.2.15 低額譲渡を判断する際の「時価」等の意義について説示した裁判例

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「相続税法7条及び22条にいう時価とは、当核財産の取得の時において、その財産の現況に応じ、不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額、すなわち、当該財産の客観的交換価値をいうものと解される。・・・ところで、すべての財産の客観的交換価値は必ずしも一義的に確定されるものではないから、これを個別に評価する方法をとった場合には、その評価方法等により異なる評価額が生じたり、課税庁の事務負担が重くなり、課税事務の迅速な処理が困難となるおそれもある。そこで、課税実務上は、相続税法に特別の定めのあるものを除き、財産評価の一般的基準が評価基本通達により定められ、原則としてこれに定められた画一的な評価方式によって当該財産の評価をすることとされている。
 そして、右のようなあらかじめ定められた評価方法により、画一的に評価を行うことは、税負担の公平、効率的な租税行政の実現という観点からみて合理的であり、これを形式的に全ての納税者に適用して財産の評価を行うことは、一般的には、租税負担の実質的な公平をも実現し、租税平等主義にもかなうものである。・・・しかしながら、評価基本通達に定められた評価方法によるべきとする趣旨が右のようなものであることからすれば、評価基本通達に定められた評価方法を適用することによって、かえって実質的な租税負担の公平を著しく害し、相続税法の趣旨及び評価基本通達の趣旨に反することとなるなど右評価方法によることが不当な結果を招来すると認められるような事情がある場合には、評価基本通達に定める評価方法以外の他の合理的な方法により評価することが許されると解すべきである。
 このことは、評価基本通達6が「この通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産の価額は、国税庁長官の指示を受けて評価する。」と定めていることからも、明らかというべきである。」
相続税法7条にいう「著しく低い価額の対価」に該当するか否かは、当該財産の譲受けの事情、当該譲受けの対価、当該譲受けに係る財産の市場価額、当該財産の相続税評価額などを勘案して社会通念に従い判断すべきものと解するのが相当である。

横浜地判S57.7.28 「著しく低い価額」は、相続評価額の2分の1未満の金額(所得税法施行令169条参照)を指すものではないとした裁判例(東京高判S58.4.19で控訴棄却)

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不動産の譲渡が、相続評価額の2分の1を若干上回る金額でされた場合、みなし贈与になるか否かが争われた事案で「同条にいう著しく低い価額の対価に該当するか否かは、当該財産の譲受の事情、当該譲受の対価、当該譲受に係る財産の市場価額、当該財産の相続税評価額などを勘案して社会通念に従い判断すべきものと解するのが相当である。」として、みなし贈与にあたるとしました。

2 その他の経済的利益(相続税法9条)に関する参考裁判例

⑴ 資金の移動に関する裁判例

東京地判H元.10.26 預金の移動につき、みなし贈与にあたるとした裁判例

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夫A名義の定期預金の満期返戻金を妻X名義の預金としたことにつき、XはAの支払うべき生活費、交際費、医療費等を立て替えて支出してきたから対価を支払わなかったのではないなどとして争ったが、みなし贈与にあたるとした事例

東京地判H22.10.2 預金の移動などにつき、みなし贈与にあたるとした裁判例

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被相続人Aの相続人XがA名義の普通預金口座から引き出された金員の交付を受け自らが発注した建築工事請負契約の代金の一部に充てた行為がみなし贈与に、XがA所有の不動産につき代金50万円で譲り受けたことが低額譲渡にあたるとされた事例(相続税に関する裁判例)。

⑵ 第三者を介さない利益の移転に関する裁判例

大阪地判S43.11.25 第三者を介さない利益の移転がみなし贈与とされた事例

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妻Xが夫Aから無償で土地を借り受け、共同住宅を建築してこれを他人に賃貸して賃料収入を得ていることにつき、「Xは本件土地を使用して共同住宅を建築し、これを他人に賃貸して賃料収入を挙げている事実が認められるから夫婦別産制をとるわが法制下においては、Xは、自己の営む事業によつて自己の所得をえているのであり、Xは税法上の見地においては独立の経済主体として本件土地を夫Aから借用することによって相当の経済的利益をうけている」としてみなし贈与にあたるとしました。

東京高判S52.7.27 第三者を介さない利益の移転がみなし贈与とされた事例

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夫Aが妻X名義の家屋につき増改築費用を出捐し、増改築工事をなさしめた場合、当該増改築部分は附合によりXの所有に帰することから、XがAに対し増改築工事に対価を支払っていないときは、みなし贈与にあたるとしました

⑶ 第三者を介した利益移転に関する裁判例

東京高判H9.6.11 第三者を介した利益移転がみなし贈与にあたるとした事例

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甲社が、Aに対し、新株を割り当てることとしたところ、Aは、A名義で子供Xらに新株を引受けさせ、Xらが新株を取得するに至ったことにつき、Aは新株を引受けたとすれば取得するであろう株式の時価とその発行価額との差額に相当する経済的利益を失い、他方、XらはA名義で新株を引受けたことにより何らの対価の支払なくして右の経済的利益を享受したとして、みなし贈与にあたるとされた事例

大阪地判S55.5.2 第三者を介した利益移転がみなし贈与にあたるとした事例(大阪高判S56.8.27で控訴棄却されています。なお、最判S38.12.24も同様の事案で、同様の判断をした控訴審判決に対する納税者側の上告を棄却しました。)

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含み資産を有する会社が、増資前の株式の割合とは異なる比率で増資した事案において、「含み資産を有する会社が増資をすれば、旧株式の価額は増資額との割合に応じて稀釈され、新株式の価額が逆に増加することとなるため増資に当たり増資前の株式の割合に応じて新株の引受がなされなかつたときは、右新株の全部又は一部を引受けなかつた者の財産が、旧株式の価額の稀釈に伴いそれだけ減少する反面、右割合を超えて新株を引受けた者の財産は、それだけ増加するから、後者は前者からその差額分の利益を取得したことと評価しうる。」として、みなし贈与に該当するとしました。

最二小判H22.7.16 第三者を介した利益移転がみなし贈与にあたるとした事例

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Xは、社団医療法人甲の追加出資を引受たましたが、甲の定款で、出資の払戻しは甲の財産のうちの運用財産についてのみできる旨及び,払戻等に係る定款の定めの変更はできない旨の条項があり、運用財産は当時債務超過状態であったためみなし贈与にあたらないと争ったが、「法令において定款の再度変更を禁止する定めがない中では,このような条項があるからといって,法的に当該変更が不可能になるものではない・・・・。基本財産と運用財産の範囲に係る定めは変更禁止の対象とされていないから,運用財産の範囲が固定的であるともいえない。そうすると,本件においては,本件増資時における定款の定めに基づく出資の権利内容がその後変動しないと客観的に認めるだけの事情はないといわざるを得ず,・・・本件法人の出資につき,基本財産を含む本件法人の財産全体を基礎として評価通達194-2の定める類似業種比準方式により評価することには,合理性があるというべきである。」として、みなし贈与にあたるとされた事例

千葉地判H10.4.23 第三者を介した利益移転がみなし贈与にあたるとした事例

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同族会社甲社が建物を新築した際に、被相続人Aから乙土地につき右無償の借地権を取得したことが、Aの相続人Xらの甲社に対する出資持分の評価額が無償で増加して、Xらは当該持分評価の増加額相当の利益をAから無償で取得したものであり、みなし贈与に該当するとしました。

3 その他の裁判例

大阪地判H25.12.12(大阪高判H26.6.18で控訴棄却) 共済制度に基づく負担金の支払と死亡共済金の受取に間に経済的利益移転は認められないとして、死亡共済金はみなし贈与でなく一時所得に該当するとした裁判例

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「本件共済制度に基づく死亡共済金は会員の相互扶助を目的とする各種共済金の1つであって、会員がAに納付する負担金も死亡共済金に関して個別に支払うのではなく、その金額は全ての共済金の受給資格に関するものとして一定とされ、共済金の額も会員が支払った負担金の額とは全く連動しない一定の額とされているのであり、退会の際は原則として返還されないというのであるから、負担金の納付と死亡共済金の受給との間に贈与と同視するに足る程度の法的な因果関係があるものとは認められない。