このページでは、遺贈についてまとめています。
遺贈とは、遺言によって、遺産の全部又は一部を無償で、又は負担を付して、他に贈与することを言います(有斐閣 法律学小辞典)。
遺産を相続人に承継する場合は、「相続させる」遺言で承継を指定すればいいのですが、相続人でない者に「相続させる」ことはできないので、遺贈することになります。なお、相続人に「遺贈」することもできます。

1 遺贈の種類 遺贈にはどのようなものがあるか

⑴ 最初に

遺贈とは、遺言によって、遺産の全部又は一部を無償で、又は負担を付して、他に贈与することを言います(有斐閣 法律学小辞典)。

遺贈には、包括遺贈・特定遺贈があります。

また、負担付遺贈も認められています(よって、遺贈の種類は包括遺贈・特定遺贈・負担付包括遺贈・負担付特定遺贈の4つになります)。

⑵ 包括遺贈・特定遺贈とは(民法964条) 

(割合的)包括遺贈とは、財産の全部又は割合による一部を遺贈する方法を指します。
特定遺贈とは、特定の財産を遺贈する方法を指します。
特定遺贈と包括遺贈の主な差異は以下のとおりです(条文は民法です)。

項目 包括遺贈      特定遺贈       
効果遺贈された割合で、債務も含めて遺産を承継します(896条、899条。相続債権者との関係では、相続債権者が承諾しない限り及びません。

相続人や他の包括受遺者と遺産を共有します(899条
負担付遺贈でない限り、債務を承継することはありません。

共有関係にはなりません。
放棄放棄する場合は、相続放棄に準じて放棄する必要があります。よって、例えば、自己のために包括遺贈があることを知ってから3か月以内に放棄の申述をしなければなりません。
なお、限定承認が可能です(990条、915条以下)。
いつでも放棄できます。放棄は遺言者死亡に遡って効力を生じます(986条)。

実務上、包括遺贈と特定遺贈かは必ずしも明確でない場合もあります。特定遺贈か包括遺贈かが争われた事案として東京地判H10.6.26があります。当該裁判例では、遺言書の文言から遺贈の対象を特定することが困難であることや、遺贈の目的が特定の財産の移転を超え学習館の運営を委ねるというものであったことなどを理由に、包括遺贈であると判断されています。

⑶ 負担付遺贈とは

負担付遺贈は、以下のように整理できます。
負担付遺贈とは、例えば妻が「残された夫の面倒を見るのであれば、長男乙に不動産を遺贈する」という内容の遺言をする場合が想定されます。この場合、妻が遺言者、長男乙が負担付遺贈の受遺者、夫が負担の利益を受けるべき者となります。

項目内 容
受遺者の責任の範囲遺贈の目的の価額を超えない限度においてのみ、負担した義務を履行する責任を負います(民法1002条1項)。
受遺者が放棄した場合負担の利益を受けるべき者は、自ら受遺者となることができる。ただし、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従います(民法1002条2項)。
相続人の取消権相続人(遺言執行者がいる場合は遺言執行者(民法1012条))は、相当の期間を定めて負担部分の履行の催告をすることができます。
この場合において、その期間内に履行がないときは、その負担付遺贈に係る遺言の取消しを家庭裁判所に請求することができます(民法1027条)。

仙台高決R2.6.11 負担付遺贈に係る遺言について、原審は民法1027条による取消を認めたものの、高裁は「遺言者の意思に鑑みても、Yに負担の不履行があるとして、今直ちに本件遺言を取り消すことが遺言者の意思にかなうものとは認められない。」として申立を却下した裁判例

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XとYの父である甲は、遺言者の有する一切の財産をY(長男)に相続させること、相続の負担としてYはX(二男)の生活を援助するものとすることを定める公正証書遺言ををし死亡した。Xが「Xの生活を援助する」義務を履行しないとして、遺言の取消を申立てたのが本件です。原審は、取消を認めましたが、本判決は以下のように説示して、原審を破棄し申立を却下しました。
「本件遺言は、Yに対し、すべての財産を相続させる負担として、『Xの生活を援助する』こと、すなわち、Xの存命中は少なくとも月額3万円(年額36万円)の経済的な援助を原審申立人にすることを法律上の義務として抗告人に負担させたものと解すべきであると判断する。しかし、他方で、本件遺言の抽象的な文言からは上記の解釈は必ずしも容易であるとはいえない上、Yは、Xから経済的な援助の履行を催告されながら現在まで履行していないけれども、今後も一切義務の履行をしないというわけではなく、義務の内容が定まれば履行する意思があることなどを考慮すると、現時点で負担を履行していないことには、Yの責めに帰することができないやむを得ない事情があり、未だ本件遺言を取り消すことが遺言者の意思にかなうものともいえないものと判断する。・・・遺言者は、長年に渡り闘病生活を送ってきたXの財産管理能力に疑念を抱き、Xの生活を必要に応じて援助しなければならないが、一度に多額の現金を取得するなどした場合には、浪費をするなどして困窮したり、Yや乙に扶養料を請求したりする事態になることを回避すべく、本件遺言をしたものと推認されるものであり、そのような遺言者の意思に鑑みても、Yに負担の不履行があるとして、今直ちに本件遺言を取り消すことが遺言者の意思にかなうものとは認められない。

2 受遺者の要件

受遺者にも一定の要件が必要とされています。受遺者の要件は以下のように整理されます。
相続人が相続権を認められる要件(=相続欠格とならないための要件)とほぼ同じです。なお、相続欠格については以下のリンク先で説明しています。

⑴ 権利能力者であること

胎児も受遺者の資格を有します(民法965条、886条)。

⑵ 受遺欠格にあたらないこと(相続欠格を準用、民法965条、891条)

以下の欠格事由がないこと。

故意に遺贈者又は遺贈について先順位若しくは同順位にある者を死亡するに至らせ、又は至らせようとしたために、刑に処せられた者
遺贈者の殺害されたことを知って、これを告発せず、又は告訴しなかった者。ただし、その者に是非の弁別がないとき、又は殺害者が自己の配偶者若しくは直系血族であったときは、除く
詐欺又は強迫によって、遺贈者が遺贈に関する遺言をし、撤回し、取り消し、又は変更することを妨げた者
詐欺又は強迫によって、遺贈者に遺贈に関する遺言をさせ、撤回させ、取り消させ、又は変更させた者
遺贈に関する遺贈者の遺言書を偽造し、変造し、破棄し、又は隠匿した者

3 遺贈の無効

以下の場合、遺贈は無効となります。遺贈が、無効の場合、受遺者が受けるべきであったものは、原則として相続人に帰属しますが、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従います(民法995条)。

⑴ 受遺者が不存在の場合

具体的には、遺言者の死亡以前に受遺者が死亡したときです(民法994条1項)。
また、停止条件付きの遺贈で、受遺者がその条件の成就前に死亡したときも同様です。ただし、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従います(民法994条2項)。

⑵ 遺贈目的物が相続財産外の場合

遺贈の目的物が遺言者の死亡の時において相続財産に属しなかったときも遺贈は無効となります(民法996条)。

ただし、その権利が相続財産に属するかどうかにかかわらず、これを遺贈の目的としたものと認められるとき(民法996条ただし書)は、無効とはなりません。
また、遺贈の目的物の滅失、変造等によって第三者に対する償金請求権や代償物が相続財産にあるときは、当該権利等が遺贈の目的と推定されます(民法999条、1001条)。

⑶ その他

遺言自体が方式違反などにより無効となる場合も、遺贈は無効となります(参考判例:最判S61.11.20)。

4 遺贈の放棄

⑴ 放棄の効果

遺贈は、放棄することが可能です。

遺贈が、放棄によってその効力を失ったときは、受遺者が受けるべきであったものは、原則として相続人に帰属しますが、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従います(民法995条)。

最判R5.5.19 複数の包括遺贈のうち、その1つが放棄された場合、遺言に別段の意思表示がない限り、放棄された包括遺贈分は他の包括遺贈者に帰属せず相続人に帰属するとした判例

裁判例の詳細を見る
「民法995条は、本文において、遺贈が、その効力を生じないとき、又は放棄によってその効力を失ったときは、受遺者が受けるべきであったものは、相続人に帰属すると定め、ただし書において、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従うと定めている。そして、包括受遺者は、相続人と同一の権利義務を有する(同法990条)ものの、相続人ではない。同法995条本文は、上記の受遺者が受けるべきであったものが相続人と上記受遺者以外の包括受遺者とのいずれに帰属するかが問題となる場面において、これが「相続人」に帰属する旨を定めた規定であり、その文理に照らして、包括受遺者は同条の「相続人」には含まれないと解される。そうすると、複数の包括遺贈のうちの一つがその効力を生ぜず、又は放棄によってその効力を失った場合、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときを除き、その効力を有しない包括遺贈につき包括受遺者が受けるべきであったものは、他の包括受遺者には帰属せず、相続人に帰属すると解するのが相当である。

なお、相続人に対する遺贈につき、相続人が遺贈を放棄したとしても、相続人の地位・義務は残ります(相続人の地位を放棄するためには、別途、相続放棄をする必要があります)。

⑵ 放棄の方法

放棄の方法は、包括遺贈と特定遺贈で異なります。

遺贈の種類  放棄の方法
包括遺贈包括受遺者は、相続人と同一の権利義務を有します(民法990条)。
よって、放棄する場合は、自己のために包括遺贈があることを知ってから3か月以内に放棄の申述をしなければなりません。
特定遺贈いつでも放棄できます。放棄は遺言者死亡に遡って効力を生じます(民法986条)。

5 権利の実現方法

受遺者が権利を実現する方法は、以下のとおりです。

⑴ 遺言執行者がいる場合

遺言執行者が遺贈義務者となりますので(民法1012条2項)、遺言執行者に対して請求します

⑵ 遺言執行者がいない場合

相続人が遺贈義務者となるので、受遺者は相続人全員に対して請求します。

6 その他 遺贈に関する事項

以下の点は、やや専門的な内容を含みますので、それぞれ、別ページにてご説明をしています。リンク先をご参照下さい。