このページでは、特別縁故者に関する裁判例を紹介しています
1では、特別縁故者と認めた裁判例を類型毎にご紹介しています。

2では、認めなかった裁判例を紹介しています。

1 特別縁故者として認めた裁判例

⑴ 被相続人と生計を同じくしていた者として、財産分与を認めた裁判例

千葉家審S38.12.9

20余年同棲し生計を同じくしていた内縁の妻に、同棲中に購入した同人の管理する不動産が実質上共有財産であるとして分与されました

大阪家審S40.3.11

30余年の間被相続人の事実上の養女として共同生活をし、養育看護を受けてきた病弱な姪に相続財産の全部が分与されました

大阪家審S41.11.28

被相続人の家事一切の世話をし、田畑を耕作し、生計の一端を担ったうえ、被相続人から親のように慕われ被相続人の療養看護に尽くし、葬儀・年忌をも営んでいる叔母を特別縁故者と認めました。
なお、相続財産が農地であったところ、特別縁故者は農業を営んでいなかったため、農地法第3条の都道府県知事の許可を得る見込みがなかったですが、対象土地の現況は既に農地ではなく、周囲の環境から住宅地区と化しており、農地法第5条による都道府県知事の許可を得る可能性は充分に認め得るとして、農地法5条の許可を条件とする財産分与が認められた事例です。

⑵ 被相続人の療養看護に努めた者として、財産分与を認めた裁判例

神戸家審S51.4.24

被相続人から報酬を得ていていましたが、対価としての報酬以上に献身的に被相続人の看護に尽した場合には特別縁故者となるとしました。

高松高決H26.9.5

労災事故で全身麻痺となり介護付き施設で死亡した被相続人につき、施設利用料は実際に提供した介護サービスを反映していないとして、同施設を運営する一般社団法人を特別縁故者として認めました

大阪高判H31.2.15

身寄りがなく、知的能力が十分ではない被相続人甲(相続財産約4120万円)につき、同人の元雇用主Xが財産分与を求めたのに対し、「甲が4000万円以上もの相続財産を形成し、これを維持できたのは、Xによって、昭和47年からの約28年間、甲人の稼働能力を超えた経済的援助・・・と、平成13年から甲死亡までの約16年間、緻密な財産管理が続けられた・・・からとみるのが相当である。甲人の相続財産の中には、Xによる約44年間もの長年にわたる経済的援助等によって形成された部分が少なからず含まれているというべきである。このほか、Xは、上記の期間(X26歳から70歳、甲42歳から86歳)、生活面でも甲人を献身的に支え、同人死亡後は、その法要等を執り行った。
このように、甲の相続財産の相応の部分がXによる経済的援助を原資としていることに加え、甲の死亡前後を通じてのXの貢献の期間、程度に照らすならば、Xは、親兄弟にも匹敵するほどに、甲を経済的に支えた上、同人の安定した生活と死後縁故に尽くしたということができる。したがって、Xは、甲人の療養看護に努め、被相続人と特別の縁故があった者(民法958条の3第1項)に該当するというべきである。」として分与額を2000万円を認めました。

名古屋高金沢支決H28.11.28

知的障害及び身体障害を有する被相続人が約35年間にわたって入所していた施設を運営する社会福祉法人Xについて、「Xは、長年にわたり、被相続人が人間としての尊厳を保ち、なるべく快適な暮らしを送ることのできるように献身的な介護を続けていたものと認められる。このような療養看護は、社会福祉法人として通常期待されるサービスの程度を超え、近親者の行う世話に匹敵すべきもの(あるいはそれ以上のもの)といって差し支えない。・・・Xの施設利用料は、・・・被相続人の介護の内容やその程度に見合うものではなかったといえるし、しかも、このような低廉な利用料の負担で済んだことが被相続人の資産形成に大きく寄与したことは、前記認定のとおりである。これらの事情を総合考慮すれば、Xは、被相続人の療養看護に努めた者として、民法958条の3第1項にいう特別縁故者に当たるというべきであり、精算後残存する被相続人の相続財産は、その全部をXに分与するのが相当であると認められる。」としました

⑶ その他被相続と特別の縁故があった者として、財産分与を認めた裁判例

大阪家審S38.12.23

50年余師弟として、近隣の長幼としての交わりをつづけ、壮年期以後においては身寄りなく孤独であつた被相続人を援助し、晩年における戦災病気唯一の財産の処分等に際しては、よき相談相手として生活上の助言者として関与し、さらに葬儀に尽した申立人に、残相続財産200万円余りの一部40万円の分与を認めました。

大阪家審S41.5.27

自己のもとで働いていた被相続人に、被相続人が家屋を購入する資金を拠出してあげ、また10年以上にわたり被相続人一家の生計を援助してきた者に、被相続人の唯一の遺産たる家屋の分与を認めました。

名古屋高決S48.1.17

被相続人の唯一血縁である従兄につき、被相続人の葬儀を営んだこと、被相続人の位牌を自宅に安置し祭祀を主宰していること、被相続人に対する援助はしなかったが、これは定職もなく子供四人を抱えて生活するのがやっとであり遠方に居住していたため援助の意思がありながらこれをなしえなかつたものであるなどとして、特別縁故者に当るとしました。

大阪高決H20.10.24

無報酬の成年後見人であった者を特別縁故者として認めました。

大阪高決H28.3.2

被相続人の身の回りの世話をしていた知人及び、後見人報酬を得ていた四親等の親族につき、被相続人が残した文書から被相続人がこれらの者に遺贈する意思を有していたことが推認されることも考慮して、特別縁故者にあたるとしました(原審は否定していた)。

東京高決H26.5.21

被相続人の父の死後、周囲との円滑な交際が難しくなった被相続人に代わり、葬儀や建物の修理等の重要な対外的行為を行い、近隣と連絡を取り、折りに触れ被相続人の安否確認を行い、被相続人死亡時には、遺体の発見に立ち会って遺体を引き取り、葬儀を執り行ったものであるから、特別縁故者に該当するとして、約4億円の遺産に対し300万円の分与を認めました

広島高決H15.3.28

「特別縁故の有無については、被相続人の生前における交際の程度、被相続人が精神的・物質的に庇護恩恵を受けた程度、死後における実質的供養の程度等の具体的実質的な縁故関係のほか、被相続人との自然的血縁関係をも考慮して決すべきものと解される。」としたうえで、19年間もの長期間、家族の協力を得て被相続人の療養、看護に努めた被相続人の配偶者の弟につき、特別縁故による財産分与を認めました。

2 特別縁故者に当たらないとした裁判例

大阪高決S46.5.18

被相続人の配偶者の遠戚につき、被相続人が遠戚宅に行った際に夕食を供し、被相続人の財産の管理について相談をうけ、あるいは被相続人の入院の世話をしたり、死後の分骨の委託をうけたりした事実があっても、これらは親類縁者として通例のことであって特別縁故者に該当しないとしました。

東京高決H26.1.15

被相続人の生前に、特別の縁故があったといえる程度に被相続人との身分関係及び交流があったということができないとして特別縁故者と認められないとしました。

東京高決H25.4.8

遺言書を偽造して相続財産を奪取しようとした者につき、特別縁故者として相続財産を分与することは相当でないとしました。

横浜家小田原支審S55.12.26

被相続人の死亡後遺産である不動産を管理したとする申立人に対し、特別縁故者とは「被相続人の生前に被相続人と縁故があつた者に限るものと解すべきであって、被相続人の死後に相続財産を事実上管理したり被相続人の祭祀をしたりした者を含むものではないと解するのが相当である。」として申立てを却下しました。
厳密には、特別縁故者と主張する者の相続人が申立てたものであるが、その点については「特別縁故者に対する財産分与の制度においては、特別縁故者にあたると主張する者の請求に基づき家庭裁判所が財産分与の審判をすることによりはじめてその者の具体的権利が発生するものと解すべきであって、たとえ、客観的には特別縁故者にあたると認められる者であつても、その者が財産分与の請求をしないで死亡したときは、相続人その他の者がその分与請求についての権利を承継することはできないと解するのが相当である」としました。

東京高決S53.8.22

特別縁故者たる者の相続人につき「被相続人の相続財産の分与を求め得る者は、被相続人生存中における特別な縁故関係者に限られ、死後、とくに祭祀をめぐって縁故を持つに至った者は除かれるべきものと考える。」などとして特別縁故者にあたらないとしました。