このページでは、限定承認についてまとめています。
限定承認は、被相続人(=亡くなった方)の資産が借金よりも多いのか少ないのかわからない場合に使われます。ただし、手続が面倒なため、あまり疲れていないように思われます。このページでは、限定承認の手続や留意点について、解説します。
1 限定承認とは
限定承認とは、相続によって得た財産の限度においてのみ被相続人の債務及び遺贈を弁済すべきことを留保して、相続の承認をすることです(民法922条)。
つまり、被相続人が債務超過であるか否か不明の場合、債務超過でなければ相続を承認するという意思表示です。
2 申述手続及び留意点
⑴ 申述手続
・相続人複数の場合、相続人の全員が共同して行わなければなりません(民法923条)。ただし、相続放棄した者は、限定承認に加わる必要はありませn(民法939条)。
・自己のために相続の開始があったことを知った時から3ヵ月以内(熟慮期間)に、相続財産の目録を作成して家庭裁判所に提出し、限定承認をする旨を申述しなければなりません(民法924条)。
・熟慮期間は家庭裁判所に伸長を請求することができます(民法924条、915条)。
・期間延伸の申立を審理するに当つては、相続財産の構成の複雑性、所在地、相続人の海外や遠隔地所在などの状況のみならず、相続財産の積極、消極財産の存在、限定承認をするについての相続人全員の協議期間並びに財産目録の調整期間などを考慮して審理するのが相当であるとされています(大阪高決S50.6.25)。
⑵ 留意点
・熟慮期間内でも、一度限定承認をしたら、撤回することができません(民法919条1項)
・一定の期間、詐欺取消や強迫による取消は可能です(民法919条2項、3項)。限定承認の取消しをしようとする者は、その旨を家庭裁判所に申述しなければなりません(民法919条4項)。
・不動産の死因贈与の受贈者である相続人が限定承認したとき、死因贈与に基づく限定承認者への所有権移転登記が相続債権者による差押登記よりも先にされたとしても、限定承認者は相続債権者に対して不動産の所有権取得を対抗することができません(最判H10.2.13)。
・被相続人が掛けていた生命保険の受取人に指定されていた者(「被保険者またはその死亡の場合はその相続人」という定めや、約款による指定も含む)が限定承認した場合でも、保険金請求権の取得には影響をしないと考えられます。
3 申述後の手続
申述後の手続は、時系列に以下のとおりです。少々複雑なため、限定承認は敬遠されがちです。
⑴ 相続財産の分離
・相続人が1名の場合はその者が、相続人が数人ある場合には家庭裁判所が相続人の中から選任した相続財産の管理人が、相続財産の管理・清算をします(民法926条、936条)。
・相続債権者は、対抗要件を要する権利(抵当権など)については、被相続人の死亡時までに登記をしていなければ、他の相続債権者や受遺者に優先権を主張できません(最判H11.1.21)。つまり、相続時に対抗要件を備えていない相続債権者は、被相続人の死亡前にされた抵当権設定の仮登記に基づいて被相続人の死亡後に本登記を請求をする場合を除き、相続開始後、相続財産法人に対して対抗要件具備(例えば、抵当権設定登記手続)を請求することはできません。
⑵ 公告及び催告
限定承認者又は相続財産管理人は、一定の期間内に、すべての相続債権者(相続財産に属する債務の債権者)及び受遺者に対し、限定承認をしたこと及び一定の期間内にその請求の申出をすべき旨を公告し、知れてる債権者等に個別に催告します(民法927条、936条2項)。
⑶ 相続財産の換価
限定承認者又は相続財産管理人は、原則として競売による方法により相続財産を換価します(民法932条~933条)。
例外的に、家庭裁判所が選任した鑑定人の評価に従い相続財産の全部又は一部の価額を弁済することで、限定承認者(相続人)が所有権を取得することが認められています(民法932条ただし書)。
⑷ 相続債権者等への弁済
限定承認者又は相続財産管理人は、相続債権者、受遺者の順番に弁済します(民法929条~931条、なお935条)。