このページでは、遺言の方式についてまとめています。
通常の遺言には大きく3つの方式があります!自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言です。
遺言は形式を間違えると、無効になる可能性がありますので、注意が必要です。
このページでは、共同遺言の禁止(民法975条)について説明をしています。まれに自筆証書遺言で、ご夫婦が一緒になって遺言を作成されることがありますが、このような遺言は無効になるので、注意が必要です。
1 通常方式の遺言方法
通常方式の遺言は、自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言があります。それぞれのメリットやデメリットは以下のとおりです。それぞれの方式の作成上の留意点や裁判例などの詳細は、各方式毎に、別ページにて詳しく説明をしています。
⑴ 自筆証書遺言(民法968条)
自筆で書いて、原則として自分で保管する方法の遺言です。
【主なメリット】
・簡単に書くことができます。最近は、遺言作成用の書籍もあり、本の内容に沿って作成することができます。
・費用負担がありません 。
・遺言の存在及び内容を秘密にできます。ただし、死後、遺言の存在がわからなくならないように、身近な人には保管場所などを伝えておくべきです。
【主なデメリット】
・作成要件に欠けると無効となるため、注意が必要です。日付が抜けているなどが典型例です。
・保管方法によっては紛失等の危険性が高いです。ただし、法務局に遺言書を保管できる制度が新設されています。
・偽造の危険性も他の方法に比べると高いと言えます。
・自筆で行う必要があるため、文字を書くのが苦手な人などには負担になります。なお、自筆証書遺言でも、添付する財産目録はワープロ等で印字したものを使えます(民法968条2項)。
自筆証書遺言の方式の作成上の留意点や裁判例、自筆証書遺言保管制度は以下のリンク先をご参照下さい。
⑵ 公正証書遺言(民法969条)
(公証役場で)公証人が作成する遺言書です。遺言原本は、公証役場で保管されます。
【主なメリット】
・自筆で行う必要がありません。
・公証人が関与して作成されるため、形式面で無効となる可能性は低いです(公証人は、元裁判官や検察官の方が多いです)
・公証役場で原本が保管されるため、偽造や紛失のおそれがありません。
【主なデメリット】
・一定の費用負担があります(公証役場において公証人に支払う費用などです)
・遺言内容を完全に秘密にすることは難しいです(証人が必要となるため)。
公正証書遺言の方式の作成上の留意点や裁判例などは以下のリンク先をご参照下さい。
⑶ 秘密証書遺言(民法970条)
自分で作成した遺言(ワープロ等で作成することも可能です)を作成し封印したものに、公証人がその証書を提出した日付及び遺言者の申述を封紙に記載し、遺言者及び証人とともにこれに署名し印を押す形の遺言書です。遺言書は、自分で保管します。
【主なメリット】
・自筆で行う必要がない(ワープロ等を使える)。
・公正証書遺言に比べると費用負担が少ない。
・遺言内容を秘密にできる。
【主なデメリット】
・作成要件に欠けると無効となります(自筆証書遺言と同じです)。
・保管方法によっては紛失の危険性が高いです(自筆証書遺言と同じです)。
秘密証書遺言の方式の作成上の留意点や裁判例などは以下のリンク先をご参照下さい。
2 特別方式の遺言方法について
上記1の他に、特別方式の遺言として、危篤の状態に陥った場合の遺言や、船舶で遭難した場合の遺言などの定めがあります(民法976条~982条)。いずれも、遺言者が普通の方式によって遺言をすることができるようになった時から6ヶ月生存すると、効力が失われます(民法983条)。あくまでも緊急時の遺言方式ということになります。
⑴ 疾病その他の事由によって死亡の危急に迫った者が遺言をしようとするとき(民法976条)
・証人3人以上の立会いをもって、その1人に遺言の趣旨を口授することで遺言ができます。
・口授を受けた者が、これを筆記して、遺言者及び他の証人に読み聞かせ、又は閲覧させ、各証人がその筆記の正確なことを承認した後、これに署名し、印を押さなければなりません。
・遺言の日から20日以内に、証人の1人又は利害関係人から家庭裁判所に遺言確認の審判を申立てなければ、効力は生じません。
家庭裁判所は、遺言が遺言者の真意に出たものであるとの心証を得なければ、確認することができません。もっとも、この確認には既判力がなく、他方でこの確認を経なければ遺言は効力を生じないことに確定するので、遺言が遺言者の真意に出たものであるとの心証は確信の程度に及ぶ必要はなく、当該遺言が一応遺言者の真意に適うと判断される程度のもので足りると解されています(東京高決R2.6.26、東京高決H20.12.26も同旨)。
⑵ 伝染病のため行政処分によって交通を断たれた場所に在る者が遺言をしようとするとき(民法977条)
・警察官1人及び証人1人以上の立会いをもって遺言書を作ることができます。自筆である必要はありません。
・遺言者、筆者、立会人(警察官)、証人は各自遺言書に署名、捺印をしなければなりません(民法980条)。
⑶ 船舶中に在る者が遺言をしようとするとき(民法978条)
・船長又は事務員1人及び証人2人以上の立会いをもって遺言書を作ることができます。自筆である必要はありません。
・遺言者、筆者、立会人(船長又は事務員)、証人は各自遺言書に署名、捺印をしなければなりません(民法980条)。
⑷ 船舶が遭難した場合において、当該船舶中に在って死亡の危急に迫った者が遺言をしようとするとき(民979条)
・証人2人以上の立会いをもって口頭で遺言をすることができます。
・証人が、その趣旨を筆記して、これに署名し、印を押し、かつ、証人の1人又は利害関係人から遅滞なく家庭裁判所に遺言確認の審判を申立てなければなりません。
家庭裁判所は、遺言が遺言者の真意に出たものであるとの心証を得なければ、確認することができません(民法979条4項、976条5項)。
3 共同遺言の禁止(975条)
遺言は、二人以上の者が同一の証書ですることができません(民法975条)。
この点、裁判例は、形式的に判断するのではなく、ある程度救済する方向で判断しているようです。
共同遺言禁止による遺言が無効となるか否かが争われた裁判例としては、以下のようなものがあります。
⑴ 共同遺言にあたらないとした裁判例
最判H5.10.19
B五判の罫紙四枚を合綴した、各葉ごとに被相続人Aの印章による契印がされていて、1枚目から3枚目までは、A名義の遺言書の形式のものであり、四枚目は相続人Y1名義の遺言書の形式のAの自筆証書遺言につき、「両者は容易に切り離すことができる」から共同遺言に当たらないとしました。
東京高決S57.8.27
一見被相続人Aと相続人Y1の共同遺言のような形式をとっている遺言につき、AとY1が共同の遺言書に作成するということは格別話し合ったことはないこと、Y1がAが本件遺言書を作成したことをAの死後まで全く知らず、本件遺言書に自らの氏名が記載されていることも知らなかつたこと、遺言書に記載された不動産はすべてAの所有でありY1は共有の所有権すら有していなかったことなどから、Aの単独の遺言として有効であるとしました。
⑵ 共同遺言に当たるとした裁判例
最判S56.9.11
同一の証書に二人の遺言が記載されている場合、そのうちの一方に氏名を自書しない方式の違背があるときでも、右遺言は、民法975条により禁止された共同遺言にあたるとしました。