このページでは遺言執行の具体的な内容についてまとめています

相続財産の承継関係の具体的な執行業務は、遺言の定め方によって異なります。前提となる遺言における相続財産の承継に関する定め方については、以下のリンク先をご参照下さい。なお、遺言書に記載されていない相続財産があった場合、遺言執行者の権限は及ばないため、別途相続人による遺産分割協議が必要となります。

相続財産の承継以外の執行業務としては、認知、相続人の廃除などがあります。

1 相続財産の承継関係の具体的な遺言執行について

⑴ 特定遺贈、全部包括遺贈の場合

特定遺贈、全部包括遺贈の場合の具体的な遺言執行は、概要以下のとおりとなります。

相続財産の種類   具体的な執行内容
不動産判決による場合を除き、受遺者を登記権利者、遺言執行者を登記義務者とした共同申請をします(東京高決S44.9.8)。
動産引渡し
指名債権債権譲渡通知
有価証券受遺者に名義変更手続を行います。
預金遺言執行者は預金払戻請求権を有すると解されるので(さいたま地熊谷支判H13.6.20、東京地判H14.2.22)、払戻しをして受遺者に現金で引き渡すか、預金名義を受遺者に変更します。
現金受遺者に引き渡す。

最判R5.5.19 (相続法改正前のものであるが、改正後にも妥当すると解される)遺言執行者は、相続財産の全部又は一部を包括遺贈を定める遺言を根拠として、相続財産に属する不動産にかかる所有権移転登記のうち、包括受遺者が受けるべき部分に関する抹消登記手続を求める訴えの原告適格を有するとした判例

裁判例の詳細を見る
「不動産又はその持分を遺贈する旨の遺言がされた場合において、上記不動産につき、上記の遺贈が効力を生じてからその執行がされるまでの間に受遺者以外の者に対する所有権移転登記がされたときは、遺言執行者は、上記登記の抹消登記手続又は上記持分に関する部分の一部抹消(更正)登記手続を求める訴えの原告適格を有すると解される(前掲最高裁昭和51年7月19日第二小法廷判決参照)。相続財産の全部又は一部を包括遺贈する旨の遺言がされた場合についても、これと同様に解することができる(最高裁同年(オ)第190号同年7月19日第二小法廷判決・裁判集民事118号315頁参照)。そして、以上のことは、審理の結果、遺言執行者が抹消登記手続を求める不動産が相続財産ではないと判断された場合であっても、異なるものではないというべきである。そうすると、相続財産の全部又は一部を包括遺贈する旨の遺言がされた場合において、遺言執行者は、上記の包括遺贈が効力を生じてからその執行がされるまでの間に包括受遺者以外の者に対する所有権移転登記がされた不動産について、上記登記のうち上記不動産が相続財産であるとすれば包括受遺者が受けるべき持分に関する部分の抹消登記手続又は一部抹消(更正)登記手続を求める訴えの原告適格を有すると解するのが相当である。

⑵ 「相続させる」遺言の場合

「相続させる」遺言の場合の具体的な遺言執行は、概要以下のとおりとなります。

相続財産の種類具体的な執行内容
不動産遺言で別段の意思表示がない限り、遺言執行者は対抗要件を備えるために必要な行為をすることができます(民法1014条2項、4項)。
もっとも、受益相続人は単独で不動産の相続登記ができるとした判例(最判H7.1.24)は変更されないものと思われます。
指名債権・動産遺言で別段の意思表示がない限り、遺言執行者が対抗要件を備えるために必要な行為をすることができます(民法1014条2項、4項)。
預金遺言で別段の意思表示がない限り、預金等の払戻しや解約の申入れをすることができます。
(解約の申入れは、預貯金債権の全部の遺言の目的である場合に限る)(民法1014条3項

⑶ 相続分の指定をする場合

 相続財産を一定の割合で相続に相続させる(例えば、相続人Aに1/2、相続人Bに1/3、相続人Cの1/6といった定め方)とする遺言の場合、遺言の効力発生と同時に遺言内容が実現するため、遺言執行の余地はないとされています(=遺言執行者の職務もない)。

最判R5.5.19 (相続法改正前のものであるが、改正後にも妥当すると解される)遺言執行者は、共同相続人の相続分を指定する旨の遺言を根拠として、相続財産に属する不動産にかかる所有権移転登記の抹消登記手続を求める訴えの原告適格を有しないとした判例

裁判例の詳細を見る
「共同相続人は、相続開始の時から各自の相続分の割合で相続財産を共有し(民法896条、898条1項、899条)、相続財産に属する個々の財産の帰属は、遺産分割により確定されることになる。被相続人は、遺言で共同相続人の相続分を指定することができるが(同法902条1項)、相続分の指定がされたとしても、共同相続人が相続開始の時から各自の相続分の割合で相続財産を共有し、遺産分割により相続財産に属する個々の財産の帰属が確定されることになるという点に何ら変わりはない。また、相続分の指定を受けた共同相続人は、相続財産である不動産について、不動産登記法63条2項に基づき、単独で指定相続分に応じた持分の移転登記手続をすることができるし、・・・、遺言執行者をして速やかに上記共同相続人に上記不動産持分の移転登記を取得させる必要があるともいえない。以上によれば、改正法の施行日前に開始した相続に係る相続財産である不動産につき、遺言により相続分の指定を受けた共同相続人に対してその指定相続分に応じた持分の移転登記を取得させることは、遺言の執行に必要な行為とはいえず、遺言執行者の職務権限に属しないものと解される。したがって、共同相続人の相続分を指定する旨の遺言がされた場合に、上記不動産につき上記遺言の内容に反する所有権移転登記がされたとしても、上記登記の抹消登記手続を求めることは遺言執行者の職務権限に属するものではないというべきである。そうすると、遺言執行者は、上記遺言を根拠として、上記不動産についてされた所有権移転登記の抹消登記手続を求める訴えの原告適格を有するものではないと解するのが相当である。」

2 相続財産の承継以外の具体的な遺言執行について

⑴ 一般的な事項について

一般的な執行業務としては、以下のようなものがあります。
①認知(民法781条2項、戸籍法64条)の届出
②相続人の廃除・その取消し(民法893条、894条2項)につき、家庭裁判所への審判の申立て
③一般社団法人の設立(一般社団法人及び一般財団法人に関する法律152条2項、155条)は、定款作成のうえ公証人の認証の受けるなど必要な事務をして、設立登記の申請をする

⑵ 訴訟追行

遺言執行者が対応すべき訴訟類型としては、以下のようなものがあります。
遺言執行者が当事者となるか否が、まず問題になります。

遺言無効確認訴訟

遺言執行者がいる場合は遺言執行者が対応をします(最判S31.9.18

なお、すでに受遺者に遺贈による所有権移転登記(所有権移転仮登記を含む)がされている場合は、相続人の抹消登記手続訴訟の被告は遺言執行者でなく受遺者となります(最判S51.7.19)。

受遺者からの遺贈義務の履行請求

遺言執行者がある場合には、遺贈の履行は、遺言執行者のみが行うことができます(新法012条2項)。

遺贈履行後に、移転登記の抹消手続等を求める場合は、遺言執行者でなく受遺者に被告適格が認められる(最判H51.7.19)。

「相続させる」遺言の履行請求等

原則として遺言執行者に当事者適格はありません(最判H7.1.24)。例えば、特定の相続人に相続させるものとされた不動産の賃借権確認請求訴訟の被告は、遺言書に当該不動産の管理及び相続人への引渡しを遺言執行者の職務とする旨の記載があるなどの特段の事情のない限り、遺言執行者ではなく、受益相続人となります(最判H10.2.27、広島高決H19.9.27、東京地判H15.11.12など)。

ただし、遺言に反した相続登記がされた場合は、遺言執行者は、抹消登記手続及び遺言により相続した相続人への真正な登記名義の回復を原因とする移転登記請求が可能とされています(最判H11.12.16