このページでは、遺言の執行についてまとめています。
遺言は、遺言執行者により執行される場合が多いですが、遺言執行者が選任されていない場合は、相続人が執行することになります。
遺言の検認・開封、遺言執行の対象、遺言執行者による執行内容などについて、説明をしています。
1 遺言の検認・開封について
相続開始後、まず遺言を検認し、開封するところから開始します。以下の手続きに反した場合、5万円以下の過料に処せられますが(民法1005条)、検認や開封手続の有無は遺言の効力には影響しません。
⑴ 検認
遺言の保管者は、相続開始を知った後遅滞なく検認を相続開始地の家庭裁判所(家事事件手続法209条1項)に請求しなければなりません(民法1004条1項、2項)。
ただし、
・公正証書遺言
・自筆証書遺言で法務局で保管されている遺言書
は検認不要です。
なお、検認に対し不服申立はできないとされています(福岡高決S38.4.24)。
家庭裁判所は、遺言書の検認手続期日を相続人に対して通知をしなければりません(家事事件手続規則115条)。従って、検認申立には、相続人がわかるものを添付する必要があります。
⑵ 開封
封印のある遺言書を開封する場合は、家庭裁判所において相続人又はその代理人の立会いが必要です(民法1004条3項)。一般的には、開封して直ちに検認が行われます。
2 遺言執行の対象
遺言執行の対象となる、主な事項は以下のとおりです。執行が必要な中には遺言執行者のみが執行が可能なものもあります。一方で、遺言の内容によっては、遺言執行が不要な場合もあります。
遺言執行者のみが執行可能な事項が遺言で指定されているにもかかわらず、遺言で遺言執行者が指定されていなければ、遺言執行者を選任する必要があります。
⑴ 遺言執行者又は相続人による執行の対象
遺言執行の主なものは以下の通りです。遺言執行者が選任されていない場合は、相続人が執行します。
①遺贈(民法964条)。
なお、割合的包括遺贈について、令和元年相続法改正前は、遺産分割協議をするしかなく、遺言執行者が執行すべき事項はないという裁判例がありました(東京家審S61.9.30、東京地判H13.6.26)。しかし、改正法は、「遺言執行者がある場合には、遺贈の履行は、遺言執行者のみが行うことができる」定めたため(民法1012条2項)、執行の対象になると解されます。
②生命保険金受取人の変更(保険法44条)
③祭祀主宰者の指定(民法897条1項ただし書)
④信託の設定(信託法3条2項)
⑵ 遺言執行者のみが執行可能な事項
遺言執行者のみが執行可能な事項としては、以下のものがあります。
①特定の財産を「相続させる」遺言について、相続による承継の対抗要件を備えるために必要な行為、相続財産に含まれる預金又は貯金の払戻請求や解約の申入れをすることが「できる」とされています(民法1014条2項、3項)。
①相続人の廃除又はその取消(民法893条、894条、家事事件手続法188条1項但書)。遺言執行者は、家庭裁判所に相続人廃除又はその取消を求める審判を申し立てなければなりません。
②認知(民法781条2項、戸籍法64条)
③一般社団法人の設立(一般社団法人及び一般財団法人に関する法律152条2項)
⑶ 遺言執行が不要な場合
遺言の内容が以下の場合、遺産の承継に関する執行業務は限定(不要)されます。
①相続分の指定
相続分の指定の場合、遺産分割協議に委ねられるため、遺産の管理権限(民法1012条)などを除き、執行の余地はないと解されます。
②特定財産を「相続させる」遺言
特定財産を「相続させる」旨の遺言は、何らの行為を要せずして、被相続人の死亡の時に直ちに対象遺産は指定された相続人に承継されるため(最判H3.4.19)、原則として執行業務は不要です(最判H7.1.24)。ただし、登記が被相続人名義から相続人以外の者に移転している場合は、職務が生じます(最判H11.12.16)。
なお、上記⑵①のとおり、遺言執行者は、特定の財産を「相続させる」遺言について、相続による承継の対抗要件を備えるために必要な行為と相続財産に含まれる預金又は貯金の払戻請求や解約の申入れは「できる」とされていますので(民法1014条2項、3項)、これらの行為は遺言執行者が行うことも可能です。
3 遺言執行者による執行行為
⑴ 遺言執行者の資格要件、権利義務など
遺言執行者は、遺言(民法1006条)又は、家庭裁判所(民法1010条)により選任されます。
遺言執行者は、遺言の内容を実現するため、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有します。そして、遺言執行者がある場合には、遺贈の履行は、遺言執行者のみが行うことができます(民法1012条1項、2項)。
遺言執行者がある場合、相続人は、相続財産の処分その他遺言の執行を妨げるべき行為をすることができません。これに違反して相続人がした行為は、無効ですが、善意の第三者に対抗することができないとされています。(民法1013条)なお、債務者の相続人に対する弁済につき民法478条の適用が認められる余地はあります(最判S43.12.20)。
遺言執行者がその権限内において遺言執行者であることを示してした行為は、相続人に対して直接にその効力を生じます(民法1015条)。
遺言執行者と相続人との間では委任に関する規定が準用されるため(民法1012条3項、1020条)、遺言執行者は相続人に対して、善管注意義務(644条)や報告義務(645条)などを負います(参考裁判例:東京地判S61.1.28、京都地判H19.1.24)。
遺言執行者の就職、終了、権利・義務、報酬、執行費用などの詳細については、以下のリンク先にまとめましたので、ご参照下さい。
⑵ 遺言執行者の具体的な執行業務(時系列)
遺言執行者の具体的な執行業務を時系列に説明すると以下のとおりです。
時系列に行うべき事項 | 内 容 |
---|---|
就任 | 言執行者が就職を承諾したときは、直ちにその任務を行わなければなりません(民法1007条) |
相続人への通知 | 遺言執行者は、任務開始後、遅滞なく、遺言の内容を相続人に通知しなければなりません(民法1007条2項)。 |
相続財産の目録作成 | 遅滞なく、相続財産の目録を作成して、相続人に交付しなければなりません(民法1011条1項)。相続人の請求があるときは、その立会いをもって相続財産の目録を作成し、又は公証人にこれを作成させなければなりません(民法1011条2項)。 |
遺言の執行 | 遺言内容の実現 |
任務終了通知、結果報告 | 相続人に対して任務終了の通知をします(民法1020条、655条) 相続人に対して経緯及び結果の報告をします(民法1012条3項、645条) |
具体的な遺言の執行内容は、遺言の内容によっても異なりますので、以下のリンク先にまとめました。