このページでは、遺言能力についてまとめています。遺言能力とは、遺言の内容を理解し、遺言の結果を弁識し得るに足りる意思能力です。遺言能力に欠けるものが作成した遺言は無効です。
遺言能力の有無や、認知症などの状況にある老人、未成年者、成年後見人などについて問題になります。
1 遺言能力とは
遺言の作成には、遺言の内容を理解し、遺言の結果を弁識し得るに足りる意思能力(遺言能力)が必要です(東京高判H25.3.6など)。遺言能力に欠けるものが作成した遺言は無効です。
後で遺言能力が問題となる可能がある場合、実務上考えられる対応としては、以下のようなものがあります。
医師の関与 | 医師の診断書により、意思能力があったことを立証する方法。 |
ビデオ撮影 | 遺言書作成の様子を撮影する方法。 ビデオ撮影時期が問題となるため、新聞紙の日付を撮影したりすることがあります。 なお、証拠として提出された映像(4つの途切れたファイルが合成されたもの)に、新聞は何度も映されているにもかかわらず、遺言を自書し押印する動作が全く撮影されていないことなどから、遺言を無効としたものとして東京高判H29.3.22があります。 |
遺言能力に関する裁判例が多数あります。詳細は以下のリンク先をご参照ください。
2 制限行為能力者の遺言能力
制限行為能力者の遺言能力は、以下のように整理されます。
⑴ 未成年者であっても15歳以上に遺言能力が認められています。
満15歳以上であれば、法定代理人の同意なく、単独で遺言可能です(民法961条、962条)。
⑵ 成年被後見人は、やや手続が複雑です。
成年被後見人も事理を弁識する能力を一時回復した時において、医師2人以上の立会いのもと遺言することは可能です(民法973条1項)。
この場合、遺言に立ち会った医師は、遺言者が遺言をする時において精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く状態になかった旨を遺言書に付記して、これに署名し、印を押さなければなりません(秘密証書遺言の場合は、その封紙にその旨の記載をし、署名し、印を押さなければなりません)(民法973条2項)。なお、①未成年者、②推定相続人及び受遺者並びにこれらの配偶者及び直系血族、③公証人の配偶者、四親等内の親族、書記及び使用人は立合い人になれません(民法974条)が、民法所定の証人が立ち会っていれば、たまたまこれらの者が同席していたとしても、この者によって遺言の内容が左右されたり、遺言者が自己の真意に基づいて遺言をすることを妨げられたりするなど特段の事情のない限り、遺言が無効となることはないとされています(最判H13.3.27)。
なお、直系血族、配偶者又は兄弟姉妹が後見人である場合を除き、被後見人が後見の計算の終了前に、後見人又はその配偶者若しくは直系卑属の利益となるべき遺言をしたときは、その遺言は無効となります(民法966条1項)。