このページでは、受遺者(遺贈を受けた者)の主な権利・義務/第三者に対抗要件(登記等)なく対抗できるか?についてまとめています。
順番がタイトルと反対になりますが、遺贈による権利移転と対抗要件の関係から、先に説明をしています。やや専門的な用語を説明なしに使っていますので、【専門家向け】とさせて頂きました。
1 遺贈による権利移転と第三者対抗要件の要否
ここで議論をしているのは、遺贈により、遺産の承継を受けた者が、当該承継について対抗要件なく第三者に主張できるかどうかという問題です。典型的には、遺贈対象財産を、相続人が第三者に売却してしまった場合の権利関係ということになります。
遺言執行者が指定されている場合と、されていない場合で分けて検討します。
⑴ 遺言執行者が指定されていない場合
以下の判例から、受遺者は、対抗要件を具備しなければ第三者には対抗できないと解されます。
最判S49.4.26 特定債権が遺贈された場合、遺贈義務者からの債務者に対する通知又は債務者の承諾がなければ受遺者は遺贈による債権の取得を債務者に対抗することができないとした判例
最判S39.3.6 遺言執行者がいない場合、第三者に遺贈を対抗するためには対抗要件が必要とした判例
⑵ 遺言執行者が指定されている場合
相続人がした行為は無効ですが、善意の第三者に対抗することができません(民法1013条2項)。よって、受遺者は対抗要件なく善意の第三者に対抗できないと解されます。
また、相続人の債権者(相続債権者を含む)は、法定相続分で相続財産に対して権利行使をすることが可能とされています(民法1013条3項)。よって、相続人の債権者(相続債権者を含む)に対して、当該相続人の法定相続分については、受遺者は対抗要件なく対抗できないと解されます。
2 受遺者の主な権利
⑴ 遺贈義務者(相続人又は遺言執行者)に対する引渡し/移転請求権
遺言に別段の定めがない限り、遺贈義務者(相続人又は遺言執行者)は、遺贈の目的である物又は権利を、相続開始の時(その後に当該物又は権利について遺贈の目的として特定した場合にあってはその特定した時)の状態で引き渡し又は移転する義務を負います(民法998条)。
なお、遺言に別段の定めがあれば、それに従って、引渡し・移転請求をshます。
⑵ 遺贈対象物に関する権利(条文は民法)
遺言者が、遺贈の目的物の滅失若しくは変造又はその占有の喪失によって第三者に対して償金を請求する権利を有するときは、その権利を遺贈の目的としたものと推定されます(999条1項)。
遺贈の目的物が、他の物と付合し、又は混和した場合、遺言者が民法の規定により合成物又は混和物の単独所有者又は共有者となったときは、その全部の所有権又は持分を遺贈の目的としたものと推定されます(999条2項)
債権を遺贈の目的とした場合、遺言者が弁済を受け、かつ、その受け取った物がなお相続財産中に在るときは、その物を遺贈の目的としたものと推定されます(1001条1項)。
但し、金銭債権を遺贈の目的とした場合、相続財産中にその債権額に相当する金銭がないときであっても、その金額を遺贈の目的としたものと推定されます(1001条2項)。
⑶ 果実取得権(民法992条)
遺贈の履行を請求することができる時から果実を取得します。
ただし、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従います。
3 受遺者の管理費用の負担義務(民法993条1項、299条)
受遺者は、遺贈対象物の管理費用を負担しなければなりません。
よって、遺贈義務者が遺言者の死亡後に遺贈の目的物について必要費を支出した場合は、受遺者に請求できます。
また、遺贈義務者が有益費を支出したときは、価格の増加が現存する場合に限り、受遺者の選択に従い、その支出した金額又は増価額を償還請求できます。