このページでは、遺言で定められられる内容をまとめています。
遺言内容の中心は、相続財産の承継ですが、相続人に関する事項や、遺言執行者についても、定めることが可能です。
1 遺産の承継に関する定め
遺産の承継は、①相続分の指定、②「相続させる」遺言(遺産分割方法の指定)、③遺贈のいずれかで行われます。遺産承継方法の種類や、それぞれの場合の効果をまとめると以下のとおりです。なお、相続開始の時から5年を超えない期間、遺産分割を禁止することも可能です(民法908条)。
⑴ 相続分の指定(民法902条)
相続分の指定(民法902条)とは、相続分の割合を指定する方法です(確認的に法定相続分を指定することも可能です。)。相続分を定めることを第三者に委託することもできます。なお、相続人中の1人若しくは数人の相続分のみを定めた場合(又は第三者に委託した場合)、他の相続人の相続分は法定相続分により定めます。
遺産共有の状態となるため、共有状態の解消は遺産分割手続によります。
⑵ 「相続させる」遺言(遺産分割方法の指定)(民法908条)
「相続させる」遺言(遺産分割方法の指定)(民法908条)とは、個別の資産毎に特定の相続人に相続させる旨を定めることが多いですが、割合的な相続を定めることもあります。割合的な相続を定めた場合、相続分の指定とほとんどかわりなく、遺産共有となり、共有状態の解消は遺産分割手続によると解されます。
個別の資産毎に特定の相続人に相続させる旨を定めた場合、物権的効果を有すると解されています(「当該遺言において相続による承継を当該相続人の受諾の意思表示にかからせたなどの特段の事情のない限り、何らの行為を要せずして、被相続人の死亡の時(遺言の効力の生じた時)に直ちに当該遺産が当該相続人に相続により承継される」最判H3.4.19)。
「相続させる」遺言と代襲相続の関係につき判例は、「遺産を相続させるものとされた推定相続人が遺言者の死亡以前に死亡した場合には、当該『相続させる』旨の遺言に係る条項と遺言書の他の記載との関係、遺言書作成当時の事情及び遺言者の置かれていた状況などから、遺言者が、上記の場合には、当該推定相続人の代襲者その他の者に遺産を相続させる旨の意思を有していたとみるべき特段の事情のない限り、その効力を生ずることはない」(最判H23.2.22)と、代襲相続人との関係では効力は発生しないとしている。
「相続させる」遺言において、負担付き遺贈のように、特定の相続人に負担付きで財産を相続させる旨を定めることは可能です。この場合、民法1002条1項(「負担付遺贈を受けた者は、遺贈の目的の価額を超えない限度においてのみ、負担した義務を履行する責任を負う。」)が類推適用されるとした裁判例があります(大阪地判R3.9.29)。
大阪地判R3.9.29 相続させる遺言に民法1002条1項が類推適用されるとした裁判例
⑶ 遺贈(民法964条)
遺贈は、概要以下の種類があります。
種類 | 内容・効果 |
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特定遺贈 | 財産ごとに遺贈対象者を指定する方法です。 物件的効果を有します(最判H8.1.26)。 |
全部包括遺贈 | すべての遺産を特定の者に遺贈する旨指定する方法です。 物件的効果を有します(最判H8.1.26)。なお、包括受遺者は相続人と同一の権利義務を有します(民法990条)。 |
割合的包括遺贈 | 遺贈する範囲を、遺産の割合で指定する方法です。相続分の指定に近いイメージですが、相続人でない者にも遺贈は可能です。 共有状態の解消は遺産分割手続によるとされています。なお、包括受遺者は相続人と同一の権利義務を有する(民法990条)。 |
遺贈については、以下のリンク先にまとめていますので、ご参照参照下さい。基本的な事項と、やや専門的な内容を含む事項に分けて整理しています。
⑷ その他、遺産の承継に関連して定められる事項
その他、遺産の承継に関連して、遺言で定められる事項として、以下のものがあります。
特別受益の持戻しの免除/持戻し免除の推定規定に反対する旨の意思表示(民法903条3項)。なお特別受益の持戻しの免除/持戻し免除の推定規定については、以下のリンク先で説明をしていますので、ご参照下さい。
遺留分に関する定め
原則として(遺言で特段の定めをしなければ)、目的物の価額の割合に応じた負担となりますが(民法1047条1項2号)、遺言で受遺者、同時受贈者が複数いる場合の、遺留分減殺の負担に関する別段の定めが可能です(1047条1項2号ただし書)。遺留分の負担については、以下のリンク先で説明していますので、ご参照下さい。
祭祀主催者の指定
遺言で祭祀を主宰すべき者の指定が可能です(民法897条ただし書)。祭祀の承継については、以下のリンク先で説明をしています。
2 相続人に関する事項
相続人に関する事項としては、遺言書で以下の内容を定めることができます。
⑴ 相続人の廃除及びその取消し
遺言で推定相続人を廃除する旨の意思表示が可能です(民法893条)。
また、生前行った推定相続人を廃除する旨の意思表示を取消す旨の意思表示も可能です(民法894条2項、893条)。
なお、廃除についての説明は、以下のリンク先をご参照下さい。
⑵ 認知
遺言で認知の意思表示をすることが可能です(781条2項)。
⑶ 未成年後見人・後見監督人の指定
未成年者に対して最後に親権を行う者(管理権を有する場合に限る)による未成年後見人、未成年後見監督人の指定が可能です(民法839条、848条)
3 遺言執行者に関する事項
遺言執行者に関する事項として、遺言で以下の事項を定めることが可能です。条文は民法です。
遺言書に記載できる事項 | 留意点 |
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遺言執行者の指定(1006条) | 未成年者及び破産者は遺言執行者になれません(1009条)。 |
相続させる遺言において、遺言執行者が対抗要件を具備したり、預金の払戻しや解約をすることについての別段の定め(1014条4項) | 原則は、遺言執行者は、相続人が対抗要件を備えるために必要な行為をすることができます。また、相続預金又は貯金の払戻しの請求及び解約の申入れをすることができます(解約の申入れについては、その預貯金債権の全部が承継遺言の目的である場合に限られます)。別段の定めで制限することが可能です。 |
遺言執行者の復任権を制限する旨の定め(1016条1項但書き) | 原則は、遺言執行者は自己の責任で、第三者にその任務を行わせることができます(1016条1項本文)。別段の定めで制限することが可能です。 |
遺言執行者複数の場合の別段の定め(1017条1項但書き) | 原則は、遺言執行者が数人ある場合には、その任務の執行は、保存行為を除き、過半数で決します(1017条)。 |
遺言執行者の報酬(1018条1項但書き) | 定めがなければ、家庭裁判所が決定します(1018条、648条2項、3項)。 |
4 その他
その他、遺言では以下のような事項を定めることが可能です。
①一般社団法人の設立(一般社団法人及び一般財団法人に関する法律152条2項)
②信託の設定(信託法3条2号)
③保険金受取人の変更(保険法44条、73条)