このページでは、遺留分による紛争の防止策について説明しています。遺留分による紛争防止策の一つとして、遺留分権利者が遺留分を放棄することが考えられるため、遺留分の放棄についても、ここで説明をしています。遺留分の放棄は、相続発生後だけでなく、被相続人の生前に行う方法も準備されています。
なお、民法改正に伴い、遺留分減殺請求侵害額請求と表現が改められました。ただ、遺留分減殺請求という表現はなじみがあるので、遺留分減殺請求という表記も残していますこと、ご了承ください。
1 紛争防止策のまとめ
遺留分による紛争防止策を整理すると、概要以下のとおりです。
⑴ 遺留分を侵害する遺言などを行わない
全相続人の遺留分を侵害しない内容の遺言等としておくことが、紛争を防ぐ最も端的な方法です。
ただし、遺留分は侵害しないとしても、遺産を不公平に承継した場合、遺産を公平に分割しなかったことによる心情的な不満が残る可能性はあります。
⑵ 遺留分の事前放棄
遺留分を放棄することについて了解を得られている場合には、被相続人の生存中に、放棄する者が被相続人の住所地の家庭裁判所に申立てをして許可を得ることが考えられます(民法1049条)。
→2参照
⑶ 中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律による特例を利用する方法
被相続人が会社の経営者である場合、推定相続人(兄弟姉妹及びその子は除く)全員の書面による合意により、被相続人が後継者に贈与等した対象会社株式を遺留分算定の基礎財産から除外する合意ができます。後継者が単独で家庭裁判所に申立てることができるため、遺留分の放棄よりも後継者以外の者の負担は少なくなります。
⑷ 遺留分侵害の負担額の順番を遺言で定めておく方法(民法1047条1項2号但書)
遺言で遺留分侵害額の負担の順序を定めてくことで、一定の範囲の紛争を防止することができると考えられます。
2 遺留分の相続開始前の放棄方法(手続、効果など)
⑴ 手続
①申立て
放棄をする本人が、被相続人となる者の住所地を管轄する家庭裁判所に申立てを行います(家事事件手続法216条)。
②家庭裁判所の許可(審判)(民法1049条1項)
家庭裁判所は、権利者の自由意思、放棄理由の合理性・必要性、代償の有無などを考慮して許否を判断する
遺留分放棄が許可された事例として東京高決H15.7.2、不許可とされた事例として神戸家審S40.10.26、大阪家審S46.7.31、和歌山家審S60.11.14などがあります。
放棄申立てをしたものの自由な意志が認められなかったり、不確かな約束に基づき申し立てをしたような場合に不許可となっているようです。
⑵ 効果
他の各相続人の遺留分に影響を及ぼしません(民法1049条2項)。
なお、放棄をした相続人も、相続権を喪失するわけではなく、遺産分割の対象があれば遺産分割協議の当事者にはなります。被相続人の債務も承継します。
⑶ 取消
要件は厳しくなりますが、一度遺留分放棄の意思表示の取消も認められます(家事事件手続法78条1項)。
取消を認めなかったものとして、東京高決S58.9.5、東京家審H2.2.13があります。
遺留分放棄の意思表示の取消は、遺留分放棄の前提となつた事情が著しく変化し、その結果放棄を維持することが明らかに著しく不当になつた場合などに限られるとされています(東京高決S58.9.5)。
3 相続開始後の遺留分の放棄は自由にできます。
相続開始後の遺留分の放棄は自由にできます。放棄しても他の各相続人の遺留分に影響を及ぼしません(民法1049条2項)。
なお、相続債務がある場合、遺留分権利者は債務を法定相続分に従って承継することになり、遺留分を放棄してもかかる債務を免れることにはなりません。