このページでは、遺留分侵害額請求をする側が請求可能な額、つまり遺留額の計算方法についてまとめています。遺留分額の計算は、遺留分割合に遺留分算定の基礎財産額を掛けて求めます。
なお、民法改正に伴い、遺留分減殺請求侵害額請求と表現が改められました。ただ、遺留分減殺請求という表現はなじみがあるので、遺留分減殺請求という表記も残していますこと、ご了承ください。

1 遺留分額の計算式

遺留分額=遺留分割合(→2参照)×遺留分算定の基礎財産(→3参照)

2 遺留分割合

遺留分割合は、原則として法定相続分の2分の1です。具体的には、以下のとおりです(民法1042条)。

配偶者と子供の場合

相続人法定相続分遺留分割合
配偶者2分の14分の1
子供全員で2分の1全員で4分の1

配偶者と直系尊属の場合(子供なし)

相続人法定相続分遺留分割合
配偶者3分の23分の1
尊属全員で3分の1全員で6分の1

配偶者と兄弟(子供、直系尊属なし)

相続人法定相続分遺留分割合
配偶者4分の32分の1
兄弟全体で4分の1無し

その他

相続人対象者法定相続分遺留分割合
子供のみ(配偶者なし)子供のみ全員で全部全員で2分の1
尊属のみ(配偶者・子供なし)尊属全員で全部全体で3分の1
兄弟のみ(配偶者・子供・尊属なし)兄弟全員で全部無し

3 遺留分算定の基礎財産(民法1043条~1045条)

積極財産-消極財産で計算します。具体的内容は以下のとおり。

⑴ 積極財産

原則として、被相続人が相続開始の時において有した財産一定の贈与(負担付贈与、贈与類似行為を含みます)を加算をした金額です。なお、条件付きの権利または存続期間の不確定な権利は、家庭裁判所が選任した鑑定人の評価によるとされています(民法1043条2項

加算対象になる贈与の範囲や留意点

相続開始前1年間に贈与した財産の価額(民法1044条1項前段)。なお、相続人に対するものに限られません。

時期関係なく、当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知って贈与した財産の価額(民法1044条1項後段)。なお、相続人に対するものに限られません。「損害を加えることを知って」とは、加害の意欲や目的ではなく、加害の認識があればよいとされています(大判S4.6.22)。また、かかる認識は、贈与時の状況から判断されます(大判S11.6.17

相続人に対する特別受益にあたる贈与は、相続開始前の10年間にしたものに限り、遺留分算定の基礎財産に算入されます(民法1044条3項。ただし、当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知って行った贈与は期間制限がありません。

相続開始の時価で評価されます(最判S51.3.18)。

・受贈者の行為によって、その目的である財産が滅失し、又はその価格の増減があったときであったときは、相続開始の時においてなお原状のままであるものとみなして評価します(民法1044条2項、904条

・相続人が相続放棄した場合、初めから相続人とならなかったものとみなされるため(民法939条)、民法1044条3項の適用はありません。ただし、民法1044条1項の適用はあります。

・被相続人が特別受益につき持戻し免除の意思表示(民法903条3項)している場合でも、遺留分の基礎財産には算入され、持戻し免除の意思表示は、遺留分を侵害する限度で失効します(最決H24.1.26)。
つまり、当該贈与に係る財産の価額は、遺留分を侵害する限度で、遺留分権利者である相続人の相続分に加算され、当該贈与を受けた相続人の相続分から控除されます。

負担付贈与

目的の価額から負担の価額を控除した額を遺留分算定の基礎財産に算入します(民法1045条1項)。

贈与類似行為

不相当な対価をもってした有償行為は、当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知ってしたものに限り、実質的無償部分を遺留分算定の基礎に算入されます(民法1045条2項

⑵ 消極財産

・債務の全額を控除します(民法1043条1項。最判H8.11.26)。

・保証債務は、主たる債務者が弁済不能の状態にあるため保証人がその債務を履行しなければならず、かつ、その履行による出指を主たる債務者に求償しても返還を受けられる見込みがないような特段の事情が存在する場合でない限り控除されないと解されます(東京高判H8.11.7)。

・なお、遺言執行費用・相続財産管理費用は、遺留分算定の基礎財産から控除すべき債務には当たりません(民法1043条、1046条)。