このページでは、遺留分侵害額の請求が可能な金額の計算式を説明しています。遺留分権利者が、相続人から遺贈等を受けている場合や、特別受益がある場合は、それは遺留分の額から控除されます。一方で、相続債務を承継している場合は、加算されます。
なお、民法改正に伴い、遺留分減殺請求侵害額請求と表現が改められました。ただ、遺留分減殺請求という表現はなじみがあるので、遺留分減殺請求という表記も残していますこと、ご了承ください。
1 遺留分侵害額の計算式(民法1046条)
遺留分侵害額は、以下の計算式により算定されます。
遺留分侵害額として請求可能な金額=遺留分の額-(遺留分権利者が被相続人から相続又は遺贈を受けた財産額+特別受益財産額)+相続債務額(最判H8.11.26)。
2 留意点
上記式の特別受益財産額は10年に限定されていません。
相続債務については、相続財産全部を一人の者に相続させる旨の遺言がある場合は「0」と計算されます(最判H21.3.24)。これは、相続人のうちの1人に対して財産全部を相続させる旨の遺言により相続分の全部が当該相続人に指定された場合、遺言の趣旨等から相続債務については当該相続人にすべてを相続させる意思のないことが明らかであるなどの特段の事情のない限り、当該相続人に相続債務もすべて相続させる旨の意思が表示されたものと解すべきという考え方を前提としています。
最判H21.3.24:財産全部を相続させた場合、遺留分侵害の計算について債務を加算しないとした判例
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被相続人Aの相続人は子であるXYであったところ、Aは相続人Yに全財産を相続させる旨の遺言を残して死亡した。そこで、XがYに対して遺留分減殺請求訴訟を提起した。被相続人Aは多額の債務も負担していたことから、当該債務の2分の1を減殺額に加算するか否かが争いとなった。第1審、控訴審とも加算しなかったため、Xが上告した。 本判決は「相続人のうちの1人に対して財産全部を相続させる旨の遺言により相続分の全部が当該相続人に指定された場合、遺言の趣旨等から相続債務については当該相続人にすべてを相続させる意思のないことが明らかであるなどの特段の事情のない限り、当該相続人に相続債務もすべて相続させる旨の意思が表示されたものと解すべきであり、これにより、相続人間においては、当該相続人が指定相続分の割合に応じて相続債務をすべて承継することになると解するのが相当である。もっとも、上記遺言による相続債務についての相続分の指定は、相続債務の債権者(以下「相続債権者」という。)の関与なくされたものであるから、相続債権者に対してはその効力が及ばないものと解するのが相当であり、各相続人は、相続債権者から法定相続分に従った相続債務の履行を求められたときには、これに応じなければならず、指定相続分に応じて相続債務を承継したことを主張することはできないが、相続債権者の方から相続債務についての相続分の指定の効力を承認し、各相続人に対し、指定相続分に応じた相続債務の履行を請求することは妨げられないというべきである。・・・相続人のうちの1人に対して財産全部を相続させる旨の遺言がされ、当該相続人が相続債務もすべて承継したと解される場合、遺留分の侵害額の算定においては、遺留分権利者の法定相続分に応じた相続債務の額を遺留分の額に加算することは許されないものと解するのが相当である。遺留分権利者が相続債権者から相続債務について法定相続分に応じた履行を求められ、これに応じた場合も、履行した相続債務の額を遺留分の額に加算することはできず、相続債務をすべて承継した相続人に対して求償し得るにとどまるものというべきである。」と判示し上告を棄却した。