このページでは、遺産分割障害事由について記載しています。

遺産分割障害事由とは、遺産分割ができない事由を指します。①遺言がある場合、②すでに遺産分割協議が存在する場合、③遺産分割が禁止されている場合があります。

1 遺産分割障害事由とは

遺産分割障害事由とは、遺産分割ができない(許されない)事由を指します。

①遺言がある場合、②すでに遺産分割協議が存在する場合、③遺産分割が禁止されている場合が該当しますが、①は例外があるので注意が必要です。

2 遺言がある場合 例外があるので注意が必要です。

⑴ 原則

遺言がある場合は原則として遺産分割協議はできません。
遺言により遺産分割方法の指定がある場合(=各相続財産の承継者が明確である場合)は、遺言で遺産分割の方法が指定されていない財産(民法907条1項)を除き、遺言の指定によります(民法908条

⑵ 例外

分割協議等における遺産分割の方法を指定する趣旨の内容の遺言の場合(民法908条)や、相続分指定の遺言(民法902条)の場合、及び、割合的包括遺贈の場合は、遺産分割協議が必要となります。

相続分指定の遺言とは、法定相続分と異なった割合による相続分を定めた遺言です。割合による承継であることから、1名の者に相続財産すべてを相続する旨の遺言でない限り、どの相続財産を誰が承継するかについては、遺言では決まりません。

割合的包括遺贈も、割合による遺贈(例えば、「相続財産の2分の1をAに遺贈する」などと定めたもの)についても、すべての相続財産を1名の者に遺贈する旨の遺言でない限り、どの相続財産を誰が承継するかについては、遺言では決まりません。

これらの場合、各相続財産の承継者が明確ではないため、承継者間で協議が必要になります。

また、遺言が全部ないし一部訴訟等で無効とされた場合も、無効とされた部分については遺産分割協議が必要となります。

3 遺産分割協議が存する場合

遺産分割協議が存する場合は、相続人全員の同意がない限り、改めて遺産分割協議をすることはできないと考えられます。

4 遺言等で遺産分割が禁止されている場合  3つの場合があります

遺言等で遺産分割が禁止されている場合は遺産分割協議はできません。
遺産分割が禁止される場合としては、以下の3つの場合があります。

①遺言で、相続開始の時から5年を超えない期間の遺産分割禁止を定めている場合(民法908条)。

②家庭裁判所が、期間を定めて、遺産の全部又は一部について、分割を禁じた場合(民法907条3項

名古屋家審R1.11.8 複数の遺言の効力及び解釈について争いがあり、民事訴訟の提起が予定されている遺産分割事件につき、家庭裁判所が遺産全部の分割を2年間禁止する旨の審判をした事例

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「被相続人の遺産分割については、その前提となる本件第1遺言及び本件第2遺言の効力等に関して当事者間に争いがあり、その効力等の如何によって、相続人の範囲や各自の相続分が大きく左右される状況にある。また、Xらは、これらの争いを民事訴訟により解決すべく、その提訴を準備中である。このような状況下においては、当裁判所が本件第1遺言及び本件第2遺言の効力等について判断の上で遺産分割審判をしたとしても、その判断が提起予定の訴訟における判決等の内容と抵触するおそれがあり、そうなれば、既判力を有しない遺産分割審判の判断が根本から覆されてしまい、法的安定性を著しく害することとなるから、本件第1遺言及び本件第2遺言の効力等に関する訴訟の結論が確定するまでは、遺産の全部についてその分割をすべきではない。
そして、当事者間の争い及び申立人らが提訴予定の訴訟の内容、申立人らの提訴の準備状況その他諸般の事情に鑑みると、本件第1遺言及び本件第2遺言の効力等に関する訴訟の結論が確定するまでには、向こう2年程度の期間を要することが見込まれるから、令和3年11月7日までの間、被相続人の遺産全部の分割を禁止することが相当である(なお、それより前に当該訴訟が解決に至った場合には、事情の変更があったものとして、分割禁止の審判を取り消し又は変更することが可能である(家事事件手続法197条)。)」

③相続人(受遺者や相続分の譲受人を含む)全員で、5年を超えない期間遺産分割禁止の合意をした場合(民法256条