このページでは、遺産分割審判の手続の全体像についてまとめています。
遺産分割手続は、遺産分割協議→協議でまとまらなければ調停→さらに調停でも合意に至らなければ審判に進みます(民法907条)。調停は、当事者間の話合いで決着がつかない場合に裁判所の判断を求めるものとなります。
以下、審判手続について説明を致しますが、条文はすべて家事事件手続法の条文番号です。
遺産分割手続の全体像を確認したい場合は以下のリンク先をご参照下さい。
1 審判の開始
⑴ 開始(272条4項、286条7項)
運用上、調停前置主義がとられているため、調停が不調になった場合又は、調停に代わる審判に対する異議申立てにより開始することがほとんどです。
なお、一つの申立(審判手続)で家事事件手続法別表第1の事件と別表第2の審判を求めることはできません。例えば、別表第1の事件である相続人の廃除の申立てを、別表第2の事件である遺産分割の審判を一つの申立で行うことはできません。
⑵ 管轄(191条1項、9条1項)
相続開始地の家庭裁判所です。
調停不成立で移行する場合は、改めて管轄裁判所に移送するのが原則ですが、事件を処理するために特に必要があると認めるときは、職権で、管轄権を有する家庭裁判所以外の家庭裁判所に移送し、又は自庁処理することができます。
2 審判手続
⑴ 審問が原則です(68条1項 、69条)
裁判所は、原則として当事者の陳述を聞かなければなりません。
審問期日には他の当事者も期日に立ち会うことができます。
⑵ 調査(56条1項 、58条、60条、61条、62条、70条)
家庭裁判所は、職権で事実の調査をし、かつ、申立てにより又は職権で、必要と認める証拠調べをしなければなりません。
調査方法としては家事事件手続法58条~62条で以下の方法が定められています。
・家庭裁判所調査官による事実の調査
・医師である裁判所技官による事件の関係人の心身の状況についての診断
・他の家庭裁判所、簡易裁判所、受命裁判官に対する調査嘱託
・官庁、公署その他適当と認める者への嘱託
・銀行等へ預金等に関する事項についての報告を求めることができる
事実の調査をしたときは、特に必要がないと認める場合を除き、その旨を当事者及び利害関係参加人に通知しなければなりません。
3 審判
⑴ 審判の範囲
特別受益は遺産分割と切り離して判断されることはありません。なお、特別受益財産であることの確認の訴えは不適法です(最判H7.3.7)。
審判において寄与分を判断するためには、寄与分を定める処分の申立てをする必要があります。裁判所は寄与分の請求がない限り、職権で寄与分を定める審判をすることも、寄与分を考慮した遺産分割の審判をすることも許されないと解されています(東京高決H元.8.30)。当事者が寄与分の主張をしている場合、寄与分の申立てをするか否かにつき裁判所は適切な求釈明を行使すべきと判示した裁判例があります(広島高決H6.3.8、東京高決H3.2.7)。
調停で合意調書として記録化され、かつ審判期日において合意を維持することの確認が取れれば、調停での合意内容を審判の基礎資料とできると解されます(名古屋高決H12.4.19)。
調停では相続債務の処理も含めて調整が行われた場合であっても、審判では積極財産だけを分割することになります。
⑵ 審判(76条)
審判書が作成されます。
⑶ 不服申立(85条、86条)
・審判に対しては、即時抗告が可能です(告知を受けた日から2週間以内)。
・なお、各相続人への審判の告知日が異なる場合、相続人ごとに各自が審判の告知を受けた日から即時抗告期間は進行します(最判H15.11.13)。
東京高決H26.3.20 相続財産に含まれる非公開会社の株式について、共同相続人間で分割取得させる旨決定した遺産分割審判を変更し、相続人の一人に他の相続人らに対して代償金を支払わせつつ株式を単独取得させる旨の決定をした裁判例
大阪高決H28.9.27 相続財産に含まれる土地について、代償金の支払いを前提にXに取得させる旨の決定をした原審を変更し、XYともに換価分割に反対し、またXの代償金支払能力なども踏まえて、XとYの共有取得を命じた裁判例。
⑷ 審判の確定(86条、75条)
審判に対して、適法な即時抗告がなされなければ確定します。審判手続きとは別に、具体的相続分の価額又はその価額の遺産の総額に対する割合の確認を求める訴えは不適法です(最判H12.2.24)。
確定によって形成力及び執行力が生じます。ただし、前提問題についての既判力は否定されます(最大決S41.3.2)。
4 記録の閲覧等(47条)
原則として当事者からの記録閲覧・謄写は許可されます。
利害関係を疎明した第三者は、家庭裁判所の許可を得て閲覧・謄写が可能です。