このページでは、相続財産に含まれる金銭債権についてまとめています。
債権は、当然に相続分に応じて分割されるとされています。
金銭債権には預金も含まれます。預金は、預け入れている銀行に対する債権であるからです。ただし、預金は現金とあまり変わりません(特に普通預金)。にもかかわらず、当然に分割するというのは、やや一般的な感覚とずれます。そこで、預金については、特別な取り扱がされています。その点についても触れています。
1 金銭債権(可分債権)
⑴ 預金以外の債権
法律上当然に相続分に応じて分割され、各相続人が法定相続分(民法900条、901条)又は指定相続分(民法902条)に応じて承継します(最判S29.4.8、最判H16.4.20)。
よって、各相続人は、相続分について債務者に対して支払いを求めることができると解されますが(東京地判H8.2.23、東京地判H9.5.28、東京高判H7.12.21、東京高判H26.7.10、東京地判H28.1.28)、否定する裁判例もあります(東京地判H9.10.20、広島高判H10.7.16)。なお、支払を拒否した場合、債務者に不法行為責任が成立する可能性があります(大阪高判H26.3.20)。そこで、債務者は債権者不確知を理由に弁済供託ができると解されます(名古屋高判H23.5.27)
ただし、敷金返還債務については、当該賃貸者人の地位を承継した(=当該建物を承継した)相続人が債務を承継すると考えられています(大阪高判R1.12.26)。つまり、不動産が譲渡された場合、賃貸人の地位及び敷金返還債務は新所有者に移転するとされていますが(民法605条の2第4項、最判S46.4.23)、相続の場合も同様であると解されています。
⑵ 預金債権
預金債権は、当然には分割されず、遺産分割の対象になります(最判H28.12.19、最判H29.4.6) 。
よって、遺産分割協議が整うまで、引出ができません。そこで 預金債権が遺産分割の対象であることを前提に、遺産に属する預貯金債権の仮払制度等が法定されています(民法909条の2)。→2参照。
「預金債権」の範囲についてですが、普通預金や定期預金に加えて、定額郵便貯金(最判H22.10.8)も遺産分割の範囲に含まれるとされています。
さらに、相続開始後に預金口座に振り込み送金された金銭や利息、貸付信託や金銭信託については、判例はありませんが、含まれるとする説が有力なようです。
2 遺産に属する預貯金債権の仮払制度等について
⑴ 制度趣旨
預金債権が遺産分割の対象となるため、遺産分割協議が整うまで、預金債権の債権者は確定しません。よって、葬儀費用など遺産分割協議がまとまるまでに発生する必要経費を支払うために相続預金を引き出すことができません。
そのような場合に対処方法としては、仮分割の仮処分(家事事件手続法200条2項)を利用することも可能ですが、公租公課等の相続債務の支払いや、葬儀費用等の支払いについては、仮分割の仮処分が認められなくという指摘もあり、2019年の民法改正時に遺産に属する預貯金債権の仮払制度などが導入されました。
⑵ 遺産分割前の預貯金債権の単独行使(民法909条の2)
各相続人は、遺産に属する預貯金債権の一部につき、家庭裁判所の許可なく、単独で権利行使することができます。この場合、当該権利行使をした預貯金債権は、当該相続人が遺産の一部の分割によりこれを取得したものとみなされます。
・引き出せるのは、遺産に属する預貯金債権のうち相続開始時の債権額の3分の1に法定相続分(民法900条、第901条)の規定により算定した相続分を乗じた額で、債務者(金融機関)毎に法務省令で定める額(150万円)の範囲内です。
⑶ 審判又は調停における仮処分等の要件の緩和(家事事件手続法200条3項)
家庭裁判所は、遺産分割審判又は調停において、相続財産に属する債務の弁済、相続人の生活費の支弁その他の事情により遺産に属する預貯金債権の全部又は一部を、申立人又は相手方が行使する必要があると認める時に、仮に取得させることができることとしました。
・遺産分割調停又は審判の本案が家庭裁判所に係属していることが必要です(家事事件手続法200条2項)。
・相続財産に属する債務の弁済、相続人の生活費の支弁その他の事情により行使する必要があると認める範囲内の額で認められます。
・他の共同相続人の利益を害するものでないことが要件となっています。
⑷ 遺産の一部分割の申立て(民法907条2項)
遺産の一部の分割を家庭裁判所に請求することができるとされたました(民法907条2項)。
預金債権についてのみ分割をするように申立てることが考えられます。
遺産の一部を分割することにより他の共同相続人の利益を害するおそれがないことが要件となっています。