このページでは、遺産分割の対象とならないものについて整理しています。

本来は遺産分割の対象にならないものであっても、当事者の合意で遺産分割の対象にできる場合も多数あります。本来遺産分割の対象にならないが、当事者の合意があれば対象となるものについても整理をしています。

1 原則として遺産分割の対象にならないもの

遺産分割の対象となるのは、①被相続人が相続開始時に所有し、②分割時も存在する、③未分割の、④積極財産ですので、以下のものは、遺産分割の対象とはなりません。

⑴ 相続財産に含まれないもの

相続財産に含まれないものは、遺産分割協議の対象になりません。具体的には、被相続人に属していた一切の権利義務のうち、一身専属的な権利義務及び祭祀に関する権利は、相続財産に含まれません。
相続財産の範囲については、以下のリンク先をご参照下さい。

⑵ 遺贈等により、承継者が定まるもの

遺贈等により承継者が決まっているものや、生命保険金・死亡退職金など給付者が決まっているものは、遺産分割の対象になりません。

なお、相続人全員(受遺者を含む)の合意で、遺言内容と異なる合意をすることは可能と考えられています。また、生命保険金死亡退職金も、給付を受けた者を含む当事者全員の合意で、遺産分割の対象にすることは可能と考えられています。

生命保険金死亡退職金などの相続のおける扱いについては、下記リンク先をご参照下さい。

特に自筆証書遺言について、遺言の指定の範囲に含まれるか否かが争われることがあります。遺言で指定されていない財産であれば遺産分割の対象になりますが、指定されていればなりません。裁判例としては以下のようなものがあります。

遺言の「現金」の文言に預金を含むと解されるとされた事例(東京地判R3.8.16

「普通預金」に「定期預金」も含むと解されるとされた事例(東京地判H10.9.29

「動産」に「預貯金」を含むと解されるとされた事例(東京地判H27.7.15

⑶ その他の遺産分割の対象とならない相続財産

以下のものは、遺産分割の対象になりません。これは、誤解されている方が多いので注意が必要です。なお、いずれも、当事者の合意があれば遺産分割の対象とすることができるとされています。

預金以外の金銭債権

  

債務

相続後に発生した財産

④遺産分割までの間に変形(処分)された財産
遺産分割時を遺産分割の対象を定める基準時とするのが実務であり、遺産分割までの間に処分された財産は原則として遺産分割の対象となりません。例えば、相続人全員の合意によって相続財産に含まれる不動産を売却した場合の代金債権は、特別の事情のない限り、相続財産に属さない分割債権となり、各相続人は、持分に応じて個々にこれを分割取得します(最判S52.9.19、最判S54.2.22)。ただし、遺産の分割前に遺産に属する財産が処分された場合であっても、相続人全員の同意により、当該処分された財産が遺産の分割時に遺産として存在するものとみなすことができます。また、相続人の1人又は数人により処分されたときは、当該相続人同意なく遺産の分割時に遺産として存在するものとみなすことができます(民法906条の2)。

2 本来遺産分割の対象にならないが、当事者の合意があれば対象となるもの

原則は上記の通り整理できますが、実務的には、以下のものは、当事者全員の合意があれば、協議・調停において遺産分割の対象とすることが可能と考えられています(対象とできる範囲は、協議・調停と審判で範囲が異なるので注意が必要)。なお、調停が不調となった場合、調停で合意調書として記録化され、かつ審判期日において合意を維持することの確認が取れれば、調停での合意内容を審判の基礎資料とできると解されます(名古屋高決H12.4.19)。

分類原則的な取扱             審判の取扱             
金銭債権(預金債権を除く)当然分割全員の合意があれば、審判の対象とすることが可能と考えられます。
相続財産から相続開始後に生じた果実(東京高決S63.1.14当然分割全員の合意があれば、審判の対象とすることが可能と考えられます。
遺産分割までの間に変形した代償財産当然分割全員の合意があれば、審判の対象とすることが可能と考えられます。
使途不明金相続財産の対象外全員の合意があれば、審判の対象とすることが可能と考えられます。
生命保険金(請求権)相続財産の対象外原則として審判の対象とすることはできません。
死亡退職金相続財産の対象外原則として審判の対象とすることはできません。
遺族給付相続財産の対象外原則として審判の対象とすることはできません。
系譜、祭具及び墳墓の所有権、遺骨遺産分割の対象外原則として審判の対象とすることはできません。
債務(可分債務・連帯債務・保証債務)相続財産の対象外原則として審判の対象とすることはできません。
葬儀費用・香典相続財産の対象外原則として審判の対象とすることはできません。
遺産管理費用相続財産の対象外原則として審判の対象とすることはできません。