このページでは、相続人の範囲や、相続財産の範囲が確定していることを前提に、具体的な遺産分割の内容を定めるまでの流れ(検討すべき事項)について整理をしています。
遺産分割の内容を決定するまでのおおまかなプロセスは、①相続財産の評価→②特別受益・寄与分の検討→③各当事者(相続人)の相続分率分の決定→④具体的な遺産分割の内容の決定→⑤遺産分割協議書の作成です。
以下検討します。
1 相続財産の評価の確定→相続財産総額の算出
まず、相続財産の評価額を確定して、相続財産の総額を算出することが必要となります。
遺産分割をするための相続財産の評価時点については、分割時説と相続時説がありますが、遺産分割時を基準時とする裁判例があります(札幌高決S39.11.21)。
相続財産の評価は、当事者が合意していれば当該金額で、争いがある場合は、原則としては鑑定(家事事件手続法64条1項、民事訴訟法212条以下)によるべきと考えられます。
実務上は、相続税評価額、家事調停委員の意見(調停の場合。家事事件手続法264条)や参与委員(審判の場合。家事事件手続法40条)の意見をもとに、当事者が合意に至ることもあります。なお、審判において、当事者の合意なく不動産鑑定士の資格を有する調停委員の作成した調停時の評価書により遺産の評価を行ったことが違法とされた裁判例があります(大阪高決H9.12.1)。
2 特別受益・寄与分がある場合の法定相続分の修正(みなし相続財産の算出)
特別受益がある相続人や、寄与分が認められる相続人がいる場合、法定相続分の割合を修正する必要があります。
特別受益、寄与分は相続開始時を基準時として計算します。
相続財産評価額+特別受益(複数あれば合計)-寄与分(複数あれば合計)=みなし相続財産が相続分を計算する際の基礎になります。なお、寄与分権者と特別受益者の両者がいる場合の具体的相続分の算定については、いずれかを優先的に適用するという説もありますが、実務上は、同時適用説(大阪家審S61.1.30)で運用されているようです。
3 各相続人の相続分率分の決定
⑴ 原則
・特別受益者、寄与分者がいなければ、法定相続分が相続分率となります。
⑵ 特別受益者・寄与分者がいる場合
まず、各人の具体的相続分を計算したうえで、各人の相続分率を計算します。具体的には以下の算式になります。
各人の具体的相続分=みなし相続財産×法定相続分-各特別受益+各寄与分
各人の相続分率=各人の具体的相続分÷相続財産総額
なお、一応の相続分より特別受益額のほうが大きい場合は、その者はゼロとして計算をする方法が取られます(東京家審S61.3.24など)。特別受益者の遺贈等の額が具体的相続分を超える部分は、他の相続人の負担となります。この場合の負担割合については、具体的相続分割合又は法定相続分割合で案分されます。
⑶ 補足(遺言を考慮する必要がある場合)
遺産分割協議は、遺言がないことが一般的ですが、相続分率を指定する遺言や、遺言で承継者が指定されていない相続財産がある場合は、遺産分割協議が必要となります。その場合は、以下のような処理になります。
遺言で相続分率が指定された場合は、当該指定が相続分率になります。
遺言で一部の相続財産についてのみ承継者が指定されている場合は、相続財産全体を法定相続分で案分したうえで、指定された相続財産は指定された相続人に優先的に分割されます。
4 具体的な遺産分割の内容の決定
各相続人が遺産分割時の相続財産の価額×相続分率を取得できるように、相続財産を具体的に割り当てます。
遺産分割の方法としては①現物分割、②代償分割、③換価分割、④共有分割があります。これらの内容については以下のリンク先をご参照下さい。
5 遺産分割協議書の作成
必要に応じて、合意内容を書面化します。
なお、相続放棄でなく、協議等の中で相続人が自己の取り分をゼロにすることがあります。これを相続分の放棄といいます。その場合は、相続分皆無証明書を作成する方法と、取り分をゼロとする遺産分割協議書を作成する方法があります。
相続分の放棄については、以下のリンク先をご参照下さい。