このページでは、配偶者居住権についてまとめています。
2019年相続法改正時に、相続開始から当面の間の居住権を確保する配偶者短期居住権と、終身又は相当な期間の居住権を確保する配偶者居住権民法1028条~1036条)が導入されたました。2つの制度が概要は以下のリンク先をご参照下さい。

配偶者居住権は、このうち、被相続人(=亡くなった方)所有の建物に居住していた被相続人の配偶者に原則として終身にわたり、居住権を認めるものです。

1 配偶者居住権とは?(民法1028条~1036条)

配偶者居住権とは。被相続人が所有していた不動産に居住していた被相続人の配偶者に、当該不動産に居住する権利を与えるものです。
被相続人の意思表示(遺贈)や、他の相続人の同意(遺産分割協議)により、被相続人の配偶者に、長期間にわたり認められる権利です。

2 配偶者居住権の権利の内容、登記、存続期間について

⑴ 配偶者居住権の内容

配偶者居住権により、配偶者は、居住建物の全部について無償で使用及び収益をする権利を取得します(民法1028条1項。なお、「使用及び収益する権利」となっていますが、民法1032条3項で第三者に賃貸するには所有者の了解が必要とされていますので、自由に賃貸をすることができるわけではありません。

遺産分割協議の際の配偶者居住権の評価方法について、法律上は規定を置いていません。当事者間の合意があればそれに、合意がなければ、専門家(不動産鑑定士等)の評価になるものと思われます。

⑵ 配偶者居住権の登記(民法1031条

居住建物所有者は、配偶者に配偶者居住権の設定登記を備えさせる義務を負います(民法1031条1項)。

・登記により、配偶者は、配偶者居住権を第三者に対抗することができます(民法1031条2項、605条

・登記を行った場合、配偶者は、居住建物の占有妨害者に対する妨害排除請求や、占有者に対する返還請求ができます(民法1031条2項、605条の4)。

⑶ 原則的な存続期間:配偶者の終身の間です。

原則的な存続期間は、配偶者の終身の間です。
ただし、遺産分割協議もしくは遺言に別段の定めがあるとき又は、遺産分割審判で別段の定めがされたときは、その定めによります(民法1030条)。

以上のとおり、配偶者居住権は、原則として、配偶者の死亡民法1036条、597条3項)又は、存続期間がある場合は存続期間の満了民法1036条、597条1項)による終了します。

⑷ 例外的な終了事由

存続期間中であっても、以下の場合、配偶者居住権は終了します。

・配偶者の義務違反に対する、居住建物所有者の消滅の意思表示(民法1032条4項

・居住建物の全部が滅失その他の事由により使用することができなくなったとき(民法1036条、616条の2

3 配偶者居住権の成立たのめの3要件(民法1028条)

⑴ 配偶者居住権の成立の3要件

配偶者が被相続人の財産に属した居住建物の全部ないし一部に相続開始時に居住していたこと。なお、一部に居住していた場合であっても、居住建物の全部につき配偶者居住権は成立します。

被相続人が相続開始の時に居住建物を配偶者以外の者と共有していないこと

遺産分割によって配偶者居住権を取得するものとされたこと又は、配偶者居住権遺贈の目的とされたこと。

⑵ 要件③の補足

遺産分割審判において、家庭裁判所が配偶者に配偶者居住権を取得する旨を定めることができるのは、以下の場合に限るとされています(民法1029条)。
相続人間に配偶者が配偶者居住権を取得することについて合意が成立しているとき。
・配偶者が家庭裁判所に対して配偶者居住権の取得を希望する旨を申し出た場合で、居住建物の所有者の受ける不利益の程度を考慮してもなお配偶者の生活を維持するために特に必要があると認めるとき

4 存続期間中の配偶者の主な4つの義務等(民法1032条、1033条)

配偶者居住権存続期間中の配偶者の主な義務は、以下の4点です。

①配偶者は、従前の用法に従い、居住建物の使用及び収益に善管注意義務を負います。

②配偶者居住権を譲渡することはできません。

③居住建物の所有者の承諾を得なければ、居住建物の改築若しくは増築をし、又は第三者に居住建物の使用若しくは収益をさせることができません。

④居住建物が修繕を要するとき(配偶者が自らその修繕をするときを除く)、又は居住建物について権利を主張する者があるとき、配偶者は、居住建物所有者に対し、遅滞なくその旨を通知しなければなりません(居住建物所有者が既に知っているときは除きます)。

5 存続期間中の費用負担等

⑴ 配偶者は、賃料の負担はありませんが、通常の必要費を負担します。

配偶者は、賃料の負担はありませんが(民法1028条1項)、通常の必要費を負担します(民法1034条1項)。通常の必要費とは、修繕費固定資産税です(固定資産税は、税法上建物所有者の負担とされているため、居住建物所有者が配偶者に求償する関係になるものと考えられます。)。

なお、配偶者が負担すべき費用は、配偶者から返還を受けた時から1年以内に請求しなければならず、返還を受けた時から1年を経過するまでは時効は完成しません(民法1036条、600条)。

⑵ 通常の修繕については、やや詳細な定めがあります

・配偶者は、居住建物の使用及び収益に必要な修繕をすることができます。通常の必要費である修繕費は、配偶者の負担となります(民法1034条1項)。

・居住建物が修繕を要するとき(配偶者が自らその修繕をするときを除く)、又は居住建物について権利を主張する者があるとき、配偶者は、居住建物所有者に対し、遅滞なくその旨を通知しなければなりません(居住建物所有者が既に知っているときは除きます)。

⑶ 災害等の対策費用や有益費の負担について

災害等の対策費用や有益費について、配偶者が負担した場合、その価格が現存する場合、建物所有者の選択により、建物所有者に支出額又は増加額を償還請求できます。

なお、裁判所は、有益費について、建物所有者の請求により、その償還について相当の期限を許与することができます(民法1041条、1034条2項、583条2項、196条)。

6 配偶者が返還する際の2つの義務

配偶者は、配偶者居住権が消滅したときは居住建物の返還をしなければなりません(配偶者が居住建物について共有持分を有する場合は除きます)(民法1035条1項)が、配偶者が、居住建物を返還する場合、以下の2つの義務を負います。

配偶者は、相続開始後に附属させた物がある場合、附属させた物を収去する義務を負います。ただし、借用物から分離することができない物又は分離するのに過分の費用を要する物については、この限りでありません(民法1035条2項、599条1項)。なお、相続開始後に附属させた物を収去することができます(民法1035条2項、599条2項)。

②配偶者は、通常の使用及び収益によって生じた損耗並びに経年変化及び、損傷が配偶者の責めに帰することができない事由によるものであるときを除き、相続開始後に生じた損傷を原状に復する義務を負います(民法1035条2項、621条)。

7 配偶者居住権の評価

配偶者居住権の評価については、相続税法上の評価方法が参考になると思われます。

概要は、以下の国税庁のホームページ(トップ)→税の情報・手続・用紙→税について調べる→タックスアンサー(よくある税の質問)→相続・贈与→財産の評価の「相続財産や贈与財産の評価」→No.4666 配偶者居住権等の評価をご参照ください。

詳細は、以下の国税庁ホームページ(トップ)→法令等→その他法令解釈に関する情報→財産評価→資産評価企画官情報第3号 「「配偶者居住権等の評価に関する質疑応答事例」について(情報)」にまとまっていますので、ご参照下さい。