このページでは、被相続人(=亡くなった方)の意思により、相続人の相続権を失われる方法である、相続人の廃除にその要件、手続、効果や裁判例についてまとめています。
相続人の廃除とは、例えば、相続人(例えば子供)が被相続人(例えば親)に対して虐待をしたような場合に、被相続人(親)の意思によって、子供の相続権を奪う制度です。なお、漢字は「排除」でなく「廃除」です。
1 相続廃除が認められる2つの場合と相続廃除の効果
まず、相続廃除の意味や、その効果などについて確認をしていきます。
⑴ 相続人の廃除とは
相続人の廃除とは、被相続人(=亡くなった方)の意思に基づいて相続権を失わせることができる制度です。被相続人が遺言で対象者に相続財産を承継しない旨を定めたとしても対象者には遺留分が残りますが、廃除であれば遺留分の問題は残りません。
なお、遺留分がない者については、遺言で他の者に財産を処分すれば廃除と同様の効果を得ることができるため、廃除の対象となるのは「遺留分を有する」者に限られます(民法892条)。
⑵ 廃除が認められる2つの場合
相続排除が認められる場合は、以下に限定されています(民法892条)。要件を満たさない場合には、遺言で他の方に財産を承継する旨を定めるしかありませんが、その場合、相続人は遺留分侵害額請求が可能となります。
・相続人が被相続人に対して虐待をし、若しくはこれに重大な侮辱を加えたとき
・相続人にその他の著しい非行があったとき
⑶ 廃除が認められた場合の効果
・廃除は遺言でも、生前に行うことも可能です。いずれも、廃除の審判確定により相続開始に遡って、相続権が失われます(民法893条)。詳細は、以下の2に記載しています。
・廃除された者の子などの代襲相続する権利は失われません。
・廃除の効果はあくまでも相対的なもので、他の被相続人との関係で相続権を失うわけではありません。例えば、父親の相続人の廃除が確定しても、母親の相続権まで失われません。
・遺贈を受ける資格は失われません(この点が相続欠格者と異なります)。
・配偶者が相続人の廃除をされた場合、配偶者短期居住権は認められません(民法1037条)。なお、遺贈を受ける権利は失われませんので、遺贈により配偶者居住権(民法1028条以下)を取得することは可能です。
2 相続廃除の手続
相続排除の手続を時系列にご説明いたします。
⑴ 開始
生前の場合:被相続人が家庭裁判所に排除の申立をします(民法892条、家事事件手続法39条、188条、別表第1の86項)。
遺言による場合:被相続人は遺言書で廃除の意思表示をします(民法893条)
例えば「私の現在の財産年金の受給権はYには一切受け取らせないようお願いします」という遺言が廃除の意思表示にあたるとした裁判例があります(広島高決H3.9.27)。
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この場合、相続発生後に、遺言執行者が、家庭裁判所に廃除の申立をします(民法893条、家事事件手続法188条)。
⑵ 審判(裁判所)の管轄(家事事件手続法188条1項)
・生前の場合:被相続人の住所地を管轄する家庭裁判所
・被相続人の死亡後に申し立てられた場合:相続が開始した地を管轄する家庭裁判所
⑶ 裁判所での審理
廃除を申し立てられた者の陳述聴取(家事事件手続法188条3項)等を行ったうえで、審判がなされます。
なお、廃除の審判手続中に被廃除者が死亡した場合で被廃除者を相続すべき配偶者が存在するときは、特段の事情のない限り、被廃除者の審判手続上の地位は当該配偶者に承継されると解されます(東京高決H23.8.30)。
審判の結果に不服がある者は即時抗告が可能です(家事事件手続法188条5項)。
⑷ 取消をする場合
・審判が確定しても、被相続人は家庭裁判所に取り消しの請求が可能です(民法894条1項)。
・遺言による廃除の取消も可能です(この場合、遺言執行者が取消の請求を行う)(民法894条2項、893条)。
3 廃除を認めた裁判例の紹介
相続廃除が認められた裁判例としては、以下のようなものがあります。いずれも、詳細に事実認定をしています。以下の事案の概要は、要点だけを抜き出したものですので、ご留意下さい。
東京高決H4.12.11
家出、怠学、犯罪性のある者等との交友等の虞犯事件を繰り返して起こし、少年院送致を含む数多くの保護処分を受け、その後、暴力団の中堅幹部と同棲し、さらに同人と婚姻の届出をし、その披露宴の招待状に招待者として親の名前を書くなどした娘の相続廃除が認められた事例。
大阪家審S37.8.31
学生時代から、親の財布から金銭を抜き取るなどし、また、しばしば親に金銭の強要を繰り返し、親は同棲相手との手切れ金を負担するなどもし、その後も、就職もせず、遊びまわり、金銭がなくなると無心を繰り返す息子の相続廃除が認められた事例。
名古屋家審S61.11.19
妻の許を去って長年月愛人と生活してきた夫につき、妻に対してある程度の財産的な給付をしてきたことはあっても、精神的には妻を遺棄したものであって、妻の相続人からの廃除を認めた事例。
岡山家審H2.8.10
親の金員を無断で費消し、また、多額の物品購入代金の支払いを親に負担させたるなどし、これを注意した親に暴力を振るったうえ、家出をして行方不明となっている息子に対する相続廃除が認められた事例。
大阪高決H15.3.27
被相続人の多額の財産をギャンブルにつぎ込んでこれを減少させ、その結果、被相続人をして自宅の売却までせざるをえない状況に追い込んだことや、被相続人から会社の取締役を解任されたことを不満に思い、虚偽の金銭消費賃借契約や賃貸借契約を作出して民事紛争を惹き起こし、訴訟になった後も被相続人と敵対する不正な証言を行っていた息子の相続廃除を認めた事例。
釧路家北見支審H17.1.26
末期がんを宣告された妻が手術後自宅療養中であったにもかかわらず、療養に極めて不適切な環境を作出し、その環境の中での生活を強いたり、その人格を否定する発言をするなどした夫につき、相続廃除を認めた事例。
東京高決H23.5.9
被相続人が10年近く入院及び手術を繰り返していることを知りながら、居住先の外国から年1回程度帰国して生活費等として被相続人から金員を受領するだけで、被相続人の面倒をみることはなかったことや、被相続人から提起された離縁訴訟に対し、連日電話で長時間にわたって取下げを執拗に迫ったり、同訴訟をいたずらに遅延させた被相続人の養子につき、相続廃除を認めた事例。
大阪高決R1.8.21
被相続人の長男につき、60歳を超えた被相続人に少なくとも3回にわたって暴行に及び、鼻から出血するという傷害、被相続人に全治約3週間を要する両側肋骨骨折、左外傷性気胸の傷害を負わせたことにつき「被相続人に対する上記各暴行は、社会通念上、厳しい非難に値するものと言うべきである。」として、相続廃除を認めた事例。
4 その他廃除に関する参考裁判例
大阪高判R2.2.27
被相続人が配偶者に対して遺言で廃除する意思表示をしたところ、夫婦関係にある推定相続人の場合には、離婚原因である「婚姻を継続し難い重大な事由」(民法770条1項5号)と同程度の非行が必要であるとしたうえで、道程後の非行はなく、廃除を認められないとした裁判例。