このページでは、相続人が存在しない場合の、特別縁故者への財産分与(民法958条の3)についてまとめています。
特別縁故者への財産分与は相続人が存在しないことを前提とする制度ですが、相続人がいる場合の特別寄与分の制度と類似したものです。特別寄与分の制度は以下のリンク先をご参照ください。
特別縁故者への財産分与についての要件、対象者、手続についてまとめています。
裁判例も数多くあり、以下のリンク先をご参照ください。
1 要件:相続人として権利主張する者がいないことが要件です。
相続人の捜索の公告(民法958条)の期間内に相続人としての権利を主張する者がないことが要件となります(参考判例:最判H元.11.24)。
最判H元.11.24 共有持分につき、特別縁故者に対する分与が可能とした判例(民法255条より民法958条の3が優先するとした判例)
2 特別縁故者となることができる者とは
特別縁故者の対象者は以下のとおりです。
・被相続人と生計を同じくしていた者
・被相続人の療養看護に努めた者
・その他被相続人と特別の縁故があった者
のいずれかに該当する場合
【留意点】
・対象者は自然人だけでなく法人にも認められます(神戸家審S51.4.24など)
・報酬を得ていた場合や、成年後見人であっても、報酬が低かったような場合には特別縁故者と認められる場合があります(神戸家審S51.4.24、大阪高決H20.10.24など)。
・被相続人の生前に被相続人の資産を不当利得した場合、要件を満たしていたとしても特別縁故者性を否定される可能性があります(さいたま家川越支審H21.3.24)
3 手続
⑴ 手続の流れ
特別縁故者による相続財産分与の申立
相続人捜索の公告期間満了から3か月以内に行う必要があります(民法958条の3第2項)。期間経過後に申立をしても、不適法として却下される(権利行使はできなくなる)。
↓
家庭裁判所の審判。
なお、審判に先立って相続財産管理人の意見を聴取するものとされています(家事事件手続法205条)。
⑵ 特別縁故者の死亡と権利行使の可否について
特別縁故者が相続財産分与の申立をしないまま死亡した場合、その相続人は特別縁故者の地位を承継できないとされています(東京高決H16.3.1)。
一方で、特別縁故者が相続財産分与の申立をした後に死亡した場合は、その相続人は特別縁故者の地位を承継できるとされています(山口家裁周南支決R3.3.29ほか)。
東京高決H16.3.31 「特別縁故者として相続財産の分与を受ける可能性のある者がその分与の申立てをすることのないまま死亡した場合には特別縁故者としての地位が承継されることはないと解するのが相当である。すなわち、被相続人の特別縁故者として相続財産の分与を受ける権利は、家庭裁判所における審判によって形成されるにすぎず、被相続人の特別縁故者として相続財産の分与を受ける可能性のある者も、審判前に相続財産に対し私法上の権利を有するものではない(最高裁平成6年10月13日判決・判例時報1558号27頁参照)。また、特別縁故者として相続財産分与の申立てをするかどうかは一身専属的な地位に基づくものである。そうすると、特別縁故者として相続財産の分与を受ける可能性のある者も、現にその分与の申立てをしていない以上、相続財産に対し私法上の権利を有するものではない。そして、その者が被相続人の特別縁故者として相続財産分与の申立てをする目的で、その前提手続である相続財産管理人選任事件の申立てをしていたとしても、直ちに特別縁故者ないしこれに準ずる者として相続財産に関し法律上保護すべき具体的な財産権上の地位を有するものではないというほかない。」
山口家裁周南支決R3.3.29 「特別縁故者に対する相続財産分与を申し立てた者が、申立て後、死亡したときは、その者の相続人は、その者の申立人としての地位を承継して財産の分与を求めうると解される。ただし、特別縁故者に対する相続財産の分与は、特別縁故者その人に対するものであっても、家庭裁判所が「相当と認めるとき」(民法958条の3第1項)に限り行われるべきものであるから、申立て後、死亡した者が特別縁故者に該当する場合であっても、その相続人に相続財産を分与することの相当性は、被相続人と死亡した特別縁故者の相続人との間及び死亡した特別縁故者とその相続人との間の関係、申立て後、死亡した者が特別縁故者と認められる事情に対するその相続人の関わりの有無、程度等の諸事情も勘案して判断することが相当であって、各相続人に分与する財産の割合も必ずしも法定相続分に従う必要はないというべきである。」