このページでは、相続人が存否不明の場合についてまとめています。
相続人が存否不明とは、相続人のうちの一人が生死不明という意味ではありません。相続人がいるかどうかわからない状態をいいます。このような場合、利害関係人又は検察官の請求によって、家庭裁判所が相続財産管理人を選任します。なお、相続人として権利主張する者がいない場合は、特別縁故者への財産分与が発生する可能性があります。その点についても少し触れています。
1 はじめに
⑴ 相続債権者等への返済に充当されなかった相続財産は原則として国庫に帰属します。
相続人が存否不明の場合(戸籍から判明する相続人全員が相続放棄をした場合を含みます)の手続は概要2の通りです。
相続人不存在が確定した場合、相続財産管理人は、相続財産を換価し、被相続人が締結していた契約関係を終了させ、相続債権者・受遺者に対する支払いを行います。残った相続財産は、原則として国庫に帰属します(民法959条)。主な例外が以下の⑵、⑶のとおり2つあります。
⑵ 例外① 特別縁故者への財産分与
相続人としての権利を主張する者がない場合、家庭裁判所は、相当と認めるときは、被相続人と生計を同じくしていた者、被相続人の療養看護に努めた者その他被相続人と特別の縁故があった者の請求によって、これらの者に、清算後残存すべき相続財産の全部又は一部を与えることができるとされています(民法958条の3)。これを特別縁故者への財産分与といいます。
特別縁故者への財産分与の詳細については、以下のリンク先をご参照ください。
⑶ 例外⓶ 居住用建物の賃借権は内縁配偶者等が承継できます。
居住の用に供する建物の賃借人が相続人無しに死亡した場合、その当時婚姻又は縁組の届出をしていないが、建物の賃借人である被相続人と事実上夫婦又は養親子と同様の関係にあった同居者(いわゆる、内縁の配偶者等)は、被相続人の建物の賃借人たる権利義務を承継できるとされています。ただし、当該承継者が、相続人無しに死亡したことを知った後1月以内に建物の賃貸人に反対の意思を表示したときは、承継できません(借地借家法36条1項)。
承継した場合、建物の賃貸借関係に基づき生じた債権又は債務は、同項の規定により建物の賃借人の権利義務を承継した者に帰属します(同条2項)。
2 相続人が存否不明の場合の手続
相続人が存否不明の場合の手続は、時系列で以下のとおりです。
⑴ 相続財産管理人の選任+選任の公告(2か月)
家庭裁判所は、利害関係人又は検察官の請求によって、相続財産管理人を選任します(民法951条、952条1項、家事事件手続法203条1項、別表第1の99項)。
なお、選任申立にあたっては予納金が必要です。予納金は相続財産が確保されれば予納金は戻ります。
家庭裁判所は、相続財産管理人を選任したときは、遅滞なく公告します(952条2項)。公告から2か月以内に相続人のあることが明らかにならなかったときは、⑵に進みます。
⑵ 債権等申出の公告(2か月以上)
相続財産管理人は、相続債権者(相続財産に属する債務の債権者)及び受遺者に対し、一定の期間内(2か月以上であることが必要です)にその請求の申出をすべき旨を公告します(民法957条1項)。公告期間内に相続人のあることが明らかにならなかったときは、⑶に進みます。
⑶ 相続人の捜索の公告(6か月以上)
家庭裁判所は、相続財産管理人又は検察官の請求によって、相続人があるならば一定の期間(6か月以上であることが必要です)内にその権利を主張すべき旨を公告しなければなりません(民法958条)。
公告期間内に相続人としての権利を主張する者がないときは、相続人並びに相続財産管理人に知れなかった相続債権者及び受遺者は、その権利を行使することができません(民法958条の2)。つまり、相続人の捜索公告期間の満了により、相続人不存在並びに、相続債権者及び受遺者の範囲が確定することになります。
⑷ 相続財産管理人による相続財産の換価・分配
相続財産管理人は、相続財産を換価し(民法953条、28条)、相続債権者・受遺者対して支払いを行います(民法957条2項、929条)。
なお、担保権など対抗要件を必要とする権利については、被相続人の死亡の時までに対抗要件を具備していなければ、優先権を主張できないとされています(最判H11.1.21)。
特別縁故者が存在する場合には、財産分与を行います(民法958条の3)。
特別縁故者への財産分与の詳細については、以下のリンク先をご参照ください。
⑸ 相続財産管理人に対する報酬付与/残相続財産の国庫への帰属
家庭裁判所は、管理人と不在者との関係その他の事情により、不在者の財産の中から、相当な報酬を管理人に与えることができるとされています(民法953条、29条2項)。
処分されなかった相続財産は、国庫に帰属します(民法959条)。