このページでは、特別受益の持戻免除の意思表示(民法903条3項)について、その方法などについてまとめています。
明示的に持戻免除の意思表示をしている場合は問題ないですが、そのようなことはあまりありません。贈与の時点で、そのような意思表示が必要だと考えていない方も多いですし、そのような意思表示による効果を理解されている方もあまりいないと思います。
1 持戻免除の意思表示とは(民法903条3項)
被相続人が行った贈与を、被相続人が特別受益としない意思表示をしたときは、その意思表示が有効となります。これを、持戻し免除の意思表示といいます(民法903条3項)。
2 持戻免除の意思表示の方法
持戻し免除の意思表示の方法に制限はありません(民法903条3項)。ただし、そのような意思表示がなされたかどうか争いになることは多いので、書面等で行っておくべきだと考えられます。
遺言で意思表示することも可能です。
なお、婚姻期間が20年以上の夫婦の一方である被相続人が、他の一方に対し、その居住の用に供する建物又はその敷地について遺贈又は贈与をしたときは、被相続人は持戻し免除の意思表示をしたものと推定されます(民法903条4項)。
配偶者居住権を遺贈した場合も同様です(新法1028条3項)。
3 黙示の持戻免除の意思表示を認めた裁判例4つのご紹介
上記のとおり、持戻免除の意思表示方法には制限がないためく、黙示の意思表示があったとして争われることが時々あります。
黙示の意思表示を認めた裁判例としては以下のようなものがあります。
福岡高決S45.7.31
被相続人が生前、法定相続分をはるかに超える農地その他の不動産を贈与し、農業を自己と同居して農耕に従事してきたXに継がせる意思であったことや、日付記載を欠くため自筆遺言証書としては効力のない書面中に全財産をXに譲渡する旨の記載があったことなどから持戻免除の意思があったとしました。
東京家審S49.3.25
相続人Xが、被相続人A所有の土地上に家屋を新築するに際し、Xが当該家屋にA他の家族を同居させこれらの者の面倒をみることが前提とされ、また、新築家屋の一部の使用収益をAにゆだねる一方Aはその代償としてXが前記土地を新築家屋の敷地としてXが無償使用することを許諾したものであるから、Xに特別受益を観念できるものの、持戻免除の意思を表示したものと認めました。
東京高決S51.4.16
X1は子大学卒業の翌年ころより強度の神経症となり、その後入院再発を繰返し、甲株式が贈与された当時、両親の庇護のもとに生活していたこと、母であるX2がX1を将来にわたって世話しなければならないことが予測されていたため被相続人Aは甲株式の利益配当をもつてX1とX2の生活の安定を計ろうとして甲株式の贈与を決意したと認められ、しかも、同時にYに対しても株式の贈与を行っていることを考え合せると、被相続人Aは、XらのみでなくYに対しても、持戻免除の意思を黙示的に表示したものと推認することができるとしました。
東京高決H8.8.26
被相続人AのXへの生前贈与は、Xの長年にわたる妻としての貢献に報い、その老後の生活の安定を図るためにしたものと認められる一方、Xには、他に老後の生活を支えるに足る資産も住居もないことが認められるから、右の贈与は、暗黙のうちに持ち戻し免除の意思表示をしたものと解するのが相当であるとしました。