このページでは、代襲相続における特別受益(民法903条3項)の考え方についてまとめています。
特別受益は、相続人に対する贈与を対象にするものですが、相続人が被相続人により先に死亡して、被相続人の孫に相続権が発生した場合(=代襲相続の場合)、特別受益をどのように考えるかは、やや難しい問題です。

代襲相続の場合、被代襲者に対する特別受益の範囲について議論があります。整理をすると以下のとおりです。
概要、以下のように整理されます。

1 被代襲者(例えば、子)に対する贈与等が、代襲者(例えば、孫)に対する特別受益になるか

⑴ 考え方

被代襲者(例えば、子供)に対する贈与等が、代襲者(例えば、孫)に対する特別受益になるかどうかは、明確ではありませんが、特別受益とされないことが多いと考えられます。

⑵ 特別受益にならないとした裁判例

被相続人(=亡くなった方)の被代襲者(子供)に対する学資や留学費用につき代襲者(孫)に対する特別受益にならないとしたものとして鹿児島家審S44.6.25徳島家審S52.3.14があります。

また、被相続人から贈与を受けたのは被代襲者(例えば、子供)であり、代襲相続人(例えば、孫)は当該被代襲者から当該財産を相続したにすぎない場合は特別受益にならないとするものとして大分家審S49.5.14があります。

⑶ 特別受益になるとした裁判例もあります

一方で、被代襲者(例えば、子供)に対する贈与等が、代襲者(例えば、孫)に対する特別受益になるとしたものとして福岡高判H29.5.18があります。

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「特別受益の持戻しは共同相続人間の不均衡の調整を図る趣旨の制度であり、代襲相続(民法887条2項)も相続人間の公平の観点から死亡した被代襲者の子らの順位を引き上げる制度であって、代襲相続人に、被代襲者が生存していれば受けることができなかった利益を与える必要はないこと、被代襲者に特別受益がある場合にはその子等である代襲相続人もその利益を享受しているのが通常であること等を考慮すると、被代襲者についての特別受益は、その後に被代襲者が死亡したことによって代襲相続人となった者との関係でも特別受益に当たるというべきである。」

2 代襲者(例えば、孫)に対する贈与等は特別受益になるか

代襲原因が発生する前の贈与(子供が亡くなる前の孫への贈与など)については、原則として、特別受益にならないと解されます(大分家審S49.5.14)。

ただし、実質的には被代襲者に対する遺産の前渡しに当たるなどの特段の事情がある場合は特別受益に当たると解されます(福岡高判H29.5.18)。

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「相続人でない者が、被相続人から直接贈与を受け、その後、被代襲者の死亡によって代襲相続人の地位を取得したとしても、上記贈与が実質的に相続人に対する遺産の前渡しに当たるなどの特段の事情がない限り、他の共同相続人は、被代襲者の死亡という偶然の事情がなければ、上記贈与が特別受益であると主張することはできなかったのであるから、上記贈与を代襲相続人の特別受益として、共同相続人に被代襲者が生存していれば受けることができなかった利益を与える必要はない。また、被相続人が、他の共同相続人の子らにも同様の贈与を行っていた場合には、代襲相続人と他の共同相続人との間で不均衡を生じることにもなりかねない。したがって、相続人でない者が、被相続人から贈与を受けた後に、被代襲者の死亡によって代襲相続人としての地位を取得したとしても、その贈与が実質的には被代襲者に対する遺産の前渡しに当たるなどの特段の事情がない限り、代襲相続人の特別受益には当たらないというべきである。・・・上記贈与が実質的には亡甲への遺産の前渡しとも評価しうる特段の事情があるから、上記贈与はYの特別受益に当たるというべきである。」

代襲原因(例えば子供の死亡)発生後の代襲者(例えば、孫)への贈与は、特別受益になると解されます。