このページでは、特別受益(民法903条)のうち、特に問題となるについて、「生計の資本としての贈与」についての該当例をまとめています。
具体的に問題となるのは、学資、経済的援助、債務の肩代わり、生命保険金の受取人の指定、死亡退職金の受取人の指定などです。以下、分けてご説明しています。裁判例などもご紹介しています。
特別受益に該当する生前贈与のうち、婚姻のための贈与、養子縁組のための贈与については、比較的に明確にわかることが多いため、その範囲が争われることはあまりありません。
問題は「生計の資本としての贈与」で、以下のように整理されます。
1 学資について
扶養義務の範囲を超える不相応な学資は特別受益になると解されます。
大阪高決H19.12.6 兄弟で学資に差異があっても「子供の個人差その他の事情により、公立・私立等が分かれ、その費用に差が生じることがあるとしても、通常、親の子に対する扶養の一内容として支出されるもので、遺産の先渡しとしての趣旨を含まないものと認識するのが一般であり」、特別受益にあたらないとした裁判例
名古屋高決R1.5.17 大学院生活及び留学生活に対する費用負担が特別受益にあたらないとした裁判例
2 経済的援助について
扶養の範囲を超える部分は特別受益になると解されます。
「遺産総額や被相続人の収入状況からすると、1月に10万円を超える送金・・・は生計資本としての贈与である」とする裁判例がある(東京家審H21.1.30)。
父の相続時に母から相続分を譲受けたことが、母の相続時の特別受益にあたるとされたものとして東京高判H29.7.6があります。
3 債務の肩代わり
相続人に対する求償権を放棄した部分が特別受益になると解されます。
相続人の不祥事につき被相続人が弁償額したものを、本人に求償しなかったことにつき、求償債権の免除は、相続分の前渡しとしての生計の資本としての贈与にあたるとする裁判例があります(高松家丸亀支審H3.11.19)
4 相続人のうちの特定の者が受取人となっている生命保険金
原則として、特別受益とはなりません。
ただし、保険金受取人である相続人とその他の相続人との間に生ずる不公平が民法903条の趣旨に照らし到底是認することができないほどに著しいものであると評価すべき特段の事情が存する場合は特別受益に準じて持戻しの対象になります(最二小決H16.10.29)。
なお、仮に死亡保険金請求権が特別受益になる場合の特別受益の金額は、以下のように争いがありますが、保険金額修正説が通説のようです。
保険料説:被相続人が支払った保険料額とする説
保険金額説:支払われた保険金額を特別受益の額とする説
保険金額修正説:被相続人が支払った保険料に対応する保険金額とする説
(保険を受領した相続人が保険料の一部を負担していた場合に保険金額説を修正)
5 死亡退職金
原則として、特別受益になりません(最判S55.11.27、最判S62.3.3)。
ただし、退職金受取人である相続人とその他の相続人との間に生ずる不公平が民法903条の趣旨に照らし到底是認することができないほどに著しいものであると評価すべき特段の事情が存する場合は特別受益に準じて持戻しの対象になる可能性があります(大阪家審S51.11.25)。
6 その他
分類 | 考え方 |
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被相続人の土地への借地権の設定 | 相当な対価を払っていない場合、借地権評価額の全部ないし一部が特別受益になると解されます。 |
被相続人の土地の使用貸借権の設定 | 使用借権評価額相当額が特別受益になると解されます。 |