このページでは、寄与分の具体例(類型)を裁判例と供にご紹介します。寄与分は、①事業従事(労務提供)、②金銭拠出(財産給付)、③扶養、④療養看護(介護)、⑤財産管理等の類型に分けられます。それぞれの類型毎に、寄与分が認められた裁判例も含めてご紹介します。
1 寄与分に関する類型
寄与分は、以下の類型に分けられます。
① 事業従事(労務提供)
② 金銭拠出(財産給付)
③ 扶養
④ 療養看護(介護)
⑤ 財産管理等
以下、類型毎に、寄与分が認められた裁判例をご紹介します。
2 事業従事(労務提供)の裁判例
神戸家審S50.5.31
被相続人Aの配偶者Xの協力は、「配偶者としての通常の家事労働とは別に、明かに被相続人の営業に参加し、これと協力して遺産の維持増加に貢献したものであり、これまでそれに対応する格別の利益を取得した事実もないのであるから、その寄与に相当するものを評価し、これを相続債権に準じて清算するのが相当である」としました。
前橋家高崎支審S61.7.14
被相続人と共に養豚業に従事してきた程度を考慮して、寄与分の有無及び額を当事者ごとに判断した事例
高松家丸亀支審H3.11.19
相続人Y1が夫婦で無償労働により被相続人の遺産の維持増加に寄与したこと、相続人Y2が無償労働だけでなく自己所有の不動産収入も遺産の維持増加に役立てていたことなどについて寄与分を認めました。
福岡家久留米支審H4.9.28
相続人Xは、昭和46年ころから家業の薬局経営を手伝い、昭和56年からは被相続人Aに代わって経営の中心となり、昭和60年に薬局を会社組織にした後も、店舗を新築するなどして経営規模を拡大したことにつき、「Xが無報酬又はこれに近い状態で事業に従事したとはいえないが、それでも、Xは、薬局経営のみが収入の途であったAの遺産の維持又は増加に特別の寄与貢献を相当程度したものと解せられる。」としました。
大阪高決H27.10.6
農地の荒廃を防いだ点に寄与分を認め、原審では遺産の30%、抗告審では農地のみの評価額の30%を認めました
3 金銭拠出(財産給付)の裁判例
和歌山家審S59.1.25
被相続人の配偶者Xにつき、被相続人が病気休職に伴い働き、その収入等によって被相続人名義をもつて遺産に属する宅地・居宅を購入したが、90.6%相当額は、相続人Xが提供したものであったという事情を認定して、Xに相当の寄与分を認めました。
東京家審S49.8.9
被相続人の長男であった相続人Yが債権者甲銀行に弁済することにより、被相続人所有不動産の競売の実行をまぬがれたことなどについて、寄与分を認めました。
大阪家審S51.11.25
Yと被相続人と生活費、財産購入費等は、Yの収入からも応分の負担をしていることから、被相続人名義になっていてもYの財産取得に対する寄与を認めるべきとしました。
高松高決H8.10.4
被相続人が創業した甲社に対する援助につき、甲社への援助と被相続人の資産の確保との間に明確な関連性がある場合には、被相続人に対する寄与と認める余地があるということができるとして、一定額の寄与分を認めました。
大阪高決H27.3.6
被相続人が取得した不動産の取得のローンの支払いが相続人Xの配偶者が弁済したとして寄与分を認めた事例
4 扶養の裁判例
大阪家審S61.1.30
相続人Xがもっぱら被相続人の扶養をしたことにつき、本来兄弟8人が能力に応じて負担すべきところをXが全面的に引受け、これがため被相続人は自己の財産を消費しないで遺産となったのであるから本来的義務を超えて負担したものとみなされる部分に対応する寄与の効果を認めるのが相当であるとして寄与分を認めました。
盛岡家一関支審H4.10.6
Xは、被相続人Aの長男が死亡してからほとんど一人で家業の農業に従事する一方工員として稼働して得る収入でA及び家族の生活を支え、Aの妻が死亡してからは、老人性痴呆状態のAの療養看護に勤めたもので、Xの右貢献がなければAの財産は維持できなかったと認められ、Xに特別の寄与があるとした。
長野家審H4.11.6
被相続人の母親であるX及びその夫は、その収入のほとんどを被相続人らとの生活費に費やしており、こうした援助が20年以上にわたりあったればこそ、本件遺産が形成されるに至ったとの側面も否定できず、Xに、被相続人の遺産形成に際して特別の寄与があったものと認めるのが相当であるとした
山口家萩支審H6.3.28
被相続人の求めに応じて居宅を新築し、被相続人が死亡するまでの間、無償で被相続人を居住させ、さらに被相続人が使用した水道、電気、ガス代等の光熱費等一切を負担したことなどから特別の寄与があったとした
5 療養看護(介護)の裁判例
東京高決H22.9.13
脳梗塞で倒れた被相続人の入院中の世話をし、退院後は右半身不随となった被相続人の通院の付き添い、入浴の介助など日常的な介護に当たり、更に死亡直前半年間は、毎晩失禁する処理をするなどの介護に多くの労力と時間を費やしたが、これは同居の親族の扶養義務の範囲を超え、特別の寄与にあたるとしました。
盛岡家審S61.4.11
20年余にわたり病弱で老齢の被相続人と同居して扶養し、殊に被相続人の痴呆が高じた以降その死亡に至るまでの10年間の療養看護は、親族間の扶養義務に基づく一般的な寄与の程度を遥かに超えたものであり、他人を付添婦として雇った場合支払うべき費用の支払を免がれ、Xには、被相続人の療養看護の方法により被相続人の財産の維持につき特別の寄与があつたものというべきであるとしました。
大阪家審H19.2.26
被相続人の洗髪を介助するなど、軽度の身体介助は相当早期から始まっており、その後失禁の後始末など排泄にまつわる介助も行い、さらにその後被相続人が幾度も転倒してその行動に注意を要する状態に至ったことなどを考慮して寄与分を認めました。
大阪高決H19.12.6
被相続人の認知症の症状が重くなって排泄等の介助を受けるようになり、その後要介護2、要介護3の認定を受けたものの、死亡まで自宅で被相続人を介護したことなどについて、寄与分を認めました。
6 財産管理等の裁判例
大阪家審H6.11.2
被相続人が遺産不動産に係る訴訟の第一審で敗訴した後、証拠の収集に奔走し、控訴審において逆転勝訴の結果を得ることに顕著な貢献があったことが家族しての扶助義務の範囲を超え、かつ単なる精神的寄与以上のものであって、遺産の維持につき特別の寄与があったというべきであるとしました。
長崎家早出支審S62.9.1
土地売却にあたり借家人の立退交渉、家屋の取壊し、滅失登記手続、売買契約の締結等に努力したことが、売却価格の増加に対する寄与はあつたものとみることができるとして、寄与分を認めました。