このページでは、遺言がない場合の相続手続についてまとめています。遺言がない場合は、相続人間で、誰が遺産の何を承継するのか決める必要があります。これを、遺産分割協議と言います。
遺産分割協議の前提として、相続人の確定相続財産の範囲の確定寄与分特別受益の確定などがする必要になる場合があります。
また、準確定申告、相続税の申告なども必要になる場合があります。
以下、少し長くなりますが、遺産分割を前提とした相続手続を時系列にまとめました。

1 被相続人の死亡により相続手続が開始します。

⑴ 相続開始

 医学的に死亡が確認できない場合であっても、長期間の不在者に対する失踪宣告(民法30条)や、災害による死亡が擬制される認定死亡(戸籍法89条)などの場合にも、相続は開始します。

なお、遺言により特定の財産を相続させる旨の指定がされたもの、特定遺贈の対象物及び死因贈与の対象物は、遺産分割協議の対象外となりますので、遺言/死因贈与の有無を確認する必要があります。

遺言/死因贈与で遺産分割協議の対象がない場合は、遺言による処理になります。ここでは、遺産分割の対象があることを前提に、以下検討致します。

⑵ 遺産に属する預金の仮払い制度について

平成28年に最高裁判例の変更により、相続預金が遺産分割の対象とされたため(最決H28.12.19、最判H29.4.6)、遺産分割協議中は、原則として、相続預金について、相続人は個別に権利行使することはできません。しかし、葬儀費用や生活費用を相続預金から早期に払戻す必要があることも考えれます。そこで、遺産分割協議がまとまる前でも、以下の①~③の方法で、相続預金を引き出すことが可能です。

遺産分割前の預貯金債権の単独行使(民法909条の2)
各相続人は、遺産に属する預貯金債権の一部につき、家庭裁判所の許可なく、単独で権利行使することができます。この場合、当該権利行使をした預貯金債権は、当該相続人が遺産の一部の分割によりこれを取得したものとみなされます。引き出せるのは、遺産に属する預貯金債権のうち相続開始時の債権額の3分の1に法定相続分(民法900条、901条)の規定により算定した相続分を乗じた額で、債務者(金融機関)毎に法務省令で定める額(150万円)の範囲内です。

②遺産分割調停又は審判の本案が家庭裁判所に係属している場合の、審判又は調停における仮処分家事事件手続法200条3項
家庭裁判所は、遺産分割審判又は調停において、相続財産に属する債務の弁済、相続人の生活費の支弁その他の事情により遺産に属する預貯金債権の全部又は一部を、申立人又は相手方が行使する必要があると認める時に、仮に取得させることができます。相続財産に属する債務の弁済、相続人の生活費の支弁その他の事情により行使する必要があると認める範囲内の額で認められます。また、他の相続人の利益を害するものでないことが必要です。

遺産の一部分割の申立民法907条2項
遺産の一部の分割を家庭裁判所に請求することができますので、預金債権についてのみ分割をするように申立てることが可能です。遺産の一部を分割することにより他の共同相続人の利益を害するおそれがないことが要件となっています。

2 相続人の確定

まず、相続人を確定する必要があります。相続開始後に、遺産分割協議に参加すべき相続人が変動することもあります。

なお、相続人に中に意思能力に問題がある者がいたり、未成年者がいる場合、不在者(行方不明者)がいる場合は注意が必要です。そのような場合の対応は以下のリンク先からご確認ください。

⑴ 相続人の範囲及び法定相続分

相続人の範囲及び各相続人の法定相続分(代襲相続を含む)は、以下のリンク先にまとめていますので、をご確認ください。

⑵ 相続人の有無や、その範囲の確認方法は?

通常は、相続人の範囲は被相続人(=亡くなった方)の戸籍で確認、確定することが可能です。ほとんど場合は、それで済みます。

しかしながら、まれに、婚姻関係の有無や、親子関係の有無が問題となることがあり、そのような場合は、婚姻の取消し、認知、認知無効、嫡出否認、父を定める訴え、協議上の離婚の取消し、養子縁組取消しなどにより、相続人の範囲を確定させることが必要となる場合があります。

これらは、遺産分割協議の場で確定させることはできません。遺産分割協議の前提として、人事訴訟事件として処理されます(人事訴訟法2条)。

なお、相続人の存否が不明の場合は、相続財産管理人を選任をする必要があります。以下のリンクをご参照下さい。

⑶ 相続人の範囲に変動が発生する場合とは

相続発生後に、相続人の廃除、相続欠格相続放棄、相続分の譲渡などにより、相続人の範囲が変動することがあります。
なお、相続放棄は、相続開始を知った日から3か月以内(民法915条)に行う必要があります。

相続人の廃除相続欠格については代襲相続が認められていますので、代襲相続人がいる場合は、代襲相続人が相続人になります(代襲相続人がいなければ、相続人が一人減ることになります)。

相続放棄は、代襲相続が認められていませんので、相続人が一人減ることになります。

相続分の譲渡は、相続分を譲り受けた者が相続人に代わって権利を主張することが可能です。

それぞれについて、詳しくは以下のリンク先をご参照ください。

3 限定承認をする場合は相続開始を知ってから3か月以内に申述を行う必要があります。

相続財産と相続債務のいずれかが多いかわからない場合、限定承認をすることがあります。

限定承認とは、相続によって得た財産の限度においてのみ被相続人の債務及び遺贈を弁済すべきことを留保して、相続の承認をすることです(民法922条

被相続人の相続開始を知った日から3か月以内民法924条、915条)に、相続人全員で申述を行う必要があります(民法923条、924条)。

限定承認については、詳しくは以下のリンク先をご参照ください。

4 準確定申告が必要な場合は相続開始から4か月以内に行う必要があります

被相続人(=亡くなった方)に確定申告義務がある場合で、かつ給与所得者で年末調整されない場合、被相続人の1月1日から亡くなる日までの所得にかかる所得税・消費税の申告をする必要があります(所得税法125条)。

これを準確定申告と呼びます。

相続開始を知った日から4か月以内に申告かつ納税をする必要があります(当該税額は、相続税の申告上、相続財産から差し引くことが可能です)。怠ると、相続人に無申告加算税、延滞税等が課せられる可能性がありまする(所得税法124条、125条

5 遺産分割協議(民法907条

⑴ 遺産分割協議の当事者や相続財産(遺産分割の対象となる財産)の範囲の確定など

遺産分割協議の中又はその前提として、遺産分割協議の当事者となる者の範囲や、相続財産(遺産分割の対象となる財産)を確定させる必要があります。

遺産分割協議の当事者や相続財産(遺産分割の対象となる財産)の範囲の確定など、遺産分割協議の具体的な進め方は以下のリンク先をご参照下さい。

⑵ 特別受益や寄与分を主張する相続人がいる場合は、これらについて有無及び額を確定する必要があります。

遺産分割を進めるためてには、特別受益寄与分を主張する相続人がいる場合は、これらの有無や額を確定する必要があります。

特別受益とは、相続人が被相続人(=亡くなった方)から受けている特別な利益を相続分の前渡しと考えて、相続分を計算する際に相続財産に加算して相続分を計算したうえで、当該受益額を控除した残額を特別受益者の相続分とする制度をいいます。平たく言えば、被相続人(=亡くなった方)から生前に特別な益を受けていた相続人について、遺産分割をするにあたり、その特別な益を相続分の前渡しとして遺産分割をしましょうというものです。

寄与分とは、相続人中に、被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をしていながら、対価を得ていない者がいる場合、その者の相続分算定にあたって寄与に応じた増加を認める制度です。平たく言えば、被相続人(=亡くなった方)の事業に無償で貢献した相続人や、被相続人を無償で介護した相続人などについて、特別な貢献分を加味して遺産分割をしましょうというものです。

詳しくは、それぞれ以下のリンク先をご参照下さい。

⑶ 遺産分割の具体的な手続

相続人間で話合いを行い、誰が相続財産のうち何を承継するかを決めます。これを遺産分割協議と言います。

話合いによる分割を協議分割といいます。話合いでまとまらない場合は調停、調停でもまとまらない場合は審判による分割となります。分割を終える時期に特に期限はありませんが、多くの場合、相続税申告期限に事実上拘束されます。

6 相続税申告及び納税は、相続開始から10か月以内に行う必要があります。

相続税は相続開始から10か月以内に申告及び納税を行う必要があります(相続製法27条1項

遺産が未分割の状態でも、法定相続分で課税計算をして、申告期限内に相続税は申告をしなければなりません(相続税法55条)。また、遺産が未分割の場合、配偶者税額軽減など、一定の制度の適用が受けられないので注意が必要です(相続税19の2条2項)。

7 その他の事項

そのほかに、以下の事項について検討が必要になる場合があります。

⑴ 遺産管理費用・収益の清算など

遺産管理費用は、法定相続分で負担をするのが原則です。特定の相続人が負担している場合、清算が必要になります。遺産分割協議がまとまるので、遺産の管理については以下のリンク先をご参照下さい。

⑵ 祭祀承継者の確定

祭祀承継者は、遺産協議では決めるものではありません。祭祀承継者の定め方などは、以下のリンク先をご参照下さい。

⑶ 相続債務は、遺産分割の対象になりません。

相続債務(被相続人の債務)は、原則として遺産分割協議の対象となりません。相続債務の扱いについては、以下のリンク先をご参照下さい。

⑷ 特別寄与分(民法1050条)の請求がある場合はその処理が必要になります。

特別寄与分(民法1050条)は、遺産分割協議の外で処理がされます。特別寄与分について、請求があった場合は、対応が必要になります。特別寄与分については、以下のリンク先をご参照下さい。