このページでは、相続における被相続人(=亡くなった方)の債務の扱いについてまとめています
債務は、相続の対象とはなりますが、原則として遺産分割の対象とはならなりません。この点は、誤解をされている方もいるので、注意が必要です。
また、保証債務については、相続の対象にならない場合もあると解されています。

1 通常の金銭債務(可分債務)の相続における取扱 法定相続分で承継されます。

債権者の承諾がない限り、各相続人が法定相続分に従って分割された債務を承継します(大決S5.12.4)。

遺産分割協議で、債務について相続人間で法定相続分と異なる定めをすることがありますが、債権者に対しては主張できません債権者の了解を得る必要がありますので、注意が必要です。

相続分を譲渡しても、債権者の同意がない限り相続債務を免れることはできないと解されています。相続分の譲渡については、詳しく知りたい方は以下のリンク先をご参照下さい。

遺言の内容で、相続人内部における負担割合は修正されることがあります。特に、相続人のうち一人に財産全部を相続させる旨の遺言がある場合、相続財産を承継する者が相続債務全額を承継します(最判H21.3.24)。

ただし、遺言の内容で相続内部の負担を修正している場合も、債権者には主張できません。債権者との関係でも効果を得るためには、債権者の承諾が必要です(民法902条の2

最判H21.3.24 相続財産全部の特定の相続人に全部を相続させる旨の遺言の効果について説示した判例

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被相続人Aの相続人は子であるXYであったところ、Aは相続人Yに全財産を相続させる旨の遺言を残して死亡した。そこで、XがYに対して遺留分減殺請求訴訟を提起した。被相続人Aは多額の債務も負担していたことから、当該債務の2分の1を減殺額に加算するか否かが争いとなった。第1審、控訴審とも加算しなかったため、Xが上告した。
本判決は「相続人のうちの1人に対して財産全部を相続させる旨の遺言により相続分の全部が当該相続人に指定された場合、遺言の趣旨等から相続債務については当該相続人にすべてを相続させる意思のないことが明らかであるなどの特段の事情のない限り、当該相続人に相続債務もすべて相続させる旨の意思が表示されたものと解すべきであり、これにより、相続人間においては、当該相続人が指定相続分の割合に応じて相続債務をすべて承継することになると解するのが相当である。もっとも、上記遺言による相続債務についての相続分の指定は、相続債務の債権者(以下「相続債権者」という。)の関与なくされたものであるから、相続債権者に対してはその効力が及ばないものと解するのが相当であり、各相続人は、相続債権者から法定相続分に従った相続債務の履行を求められたときには、これに応じなければならず、指定相続分に応じて相続債務を承継したことを主張することはできないが、相続債権者の方から相続債務についての相続分の指定の効力を承認し、各相続人に対し、指定相続分に応じた相続債務の履行を請求することは妨げられないというべきである。・・・相続人のうちの1人に対して財産全部を相続させる旨の遺言がされ、当該相続人が相続債務もすべて承継したと解される場合、遺留分の侵害額の算定においては、遺留分権利者の法定相続分に応じた相続債務の額を遺留分の額に加算することは許されないものと解するのが相当である。遺留分権利者が相続債権者から相続債務について法定相続分に応じた履行を求められ、これに応じた場合も、履行した相続債務の額を遺留分の額に加算することはできず、相続債務をすべて承継した相続人に対して求償し得るにとどまるものというべきである。」と説示し上告を棄却しました。

なお、法定相続分と異なる負担につき免責的債務引受の方法で処理する場合、内部的には債務を承継しない者と内部的に相続債務を承継する者が免責的債務引受の契約をして、債権者の承諾を得ることになります(民法472条3項)。あるいは、内部的に債務を承継する者と債権者が免責的債務引受の契約をして、債権者が債務を承継しない者に通知をすることでも免責的債務引受の効力は生じます(民法472条3項)。

2 連帯債務の相続における取扱

各相続人は法定相続分に応じて債務の分割されたものを承継し、その範囲において本来の債務者とともに連絡債務者となります(最判S34.6.19

3 包括根保証の相続における取扱

相続開始時に発生している保証債務については相続の対象となりますが、特段の事情がない限り、保証人の地位(相続発生後の保証債務)は相続されません(=相続人の負担とはなりません)最判S37.11.9

ただし、賃貸借契約の保証人の相続人は、相続開始後に生じた賃料債務についても保証の責任を負うとした判例があります(大判S9.1.30)。

包括根保証契約の締結が2020年4月1日の場合は、改正後の民法が適用されます。その場合は、改正後民法465条の4により、個人根保証契約は、保証人の死亡により、元本が確定しますので、当該元本についてのみ相続の対象となり、保証人の地位は承継されません。なお、当該改正時に、一定の範囲に属する不特定の債務を主たる債務とする保証契約(「根保証契約」)であってその債務の範囲に金銭の貸渡し又は手形の割引を受けることによって負担する債務が含まれるもの(保証人が法人であるものを除く)の保証は、極度額を定めなければ無効とする旨の改正もされています(465条の2第2項)ので、保証契約の締結が2020年4月1日の場合は極度額がなければ、保証契約は無効となるため、相続の問題になりません。

 限定保証債務の相続における取扱

・保証人の地位も相続されると解されます(争いがあります)。

将来に向けて解約権が認められる可能性はあります。「期間の定めのない継続的保証契約は保証人の主債務者に対する信頼関係が害されるに至つた等保証人として解約申入れをするにつき相当の理由がある場合においては、右解約により相手方が信義則上看過しえない損害をこうむるとかの特段の事情ある場合を除き、一方的にこれを解約しうるものと解するのを相当とする」とした原判決を首肯した判例があります(最判S39.12.18)。