このページでは、配偶者短期居住権についてまとめています。
2019年相続法改正時に、相続開始から当面の間の居住権を確保する配偶者短期居住権と、終身又は相当な期間の居住権を確保する配偶者居住権(民法1028条~1036条)が導入されたました。2つの制度が概要は以下のリンク先をご参照下さい。
配偶者短期居住権は、このうち、被相続人(=亡くなった方)所有の建物に居住していた被相続人の配偶者に短期的(例えば、遺産分割協議がまとまるまでなど)に、居住権を認めるものです。
1 はじめに 配偶者短期居住権(民法1037条~1041条)とは?
配偶者短期居住権とは、被相続人所有の建物に居住していた被相続人の配偶者に一定期間(例えば、遺産分割協議がまとまるまでなど)、居住権を認めるものです。
被相続人の意思表示や、他の相続人の同意なく、被相続人の配偶者に認められる権利であるが、認められる期間が短期間にとどまることがポイントです。
2 配偶者短期居住権の権利の内容/存続期間は? シンプルです。
⑴ 配偶者短期居住権の権利内容
配偶者短期居住権は、被相続人の配偶者が、、居住建物を無償で使用する権利です(居住建物の一部のみを無償で使用していた場合にあっては、その部分のみ)。
被相続人の所有していた建物に被相続人の配偶者が居住していた状態で、被相続人が亡くなった場合に問題となります。被相続人の配偶者は、存続期間内は無償で居住を継続できる。
居住建物取得者(他の相続人や、遺言で居住建物の遺贈を受けた第三者など)は、第三者に対する居住建物の譲渡その他の方法により配偶者の居住建物の使用を妨げてはなりません(民法1037条2項)。
⑵ 原則的な存続期間(民法1037条2項)
被相続人の配偶者は、原則として相続開始から最低6か月は、居住できます。具体的には以下のとおりです。
・居住建物について配偶者を含む相続人間で遺産分割をすべき場合
→遺産分割により居住建物の帰属が確定した日又は相続開始から6ヶ月を経過する日のいずれか遅い日
・上記以外の場合(遺贈や相続させる遺言により居住建物の所有権を得た者がいた場合)
→居住建物取得者からの消滅申入日から6ヶ月を経過する日
⑶ 配偶者短期居住権の例外的な終了事由:配偶者が死亡した場合など5つの例外的な終了事由
配偶者短期居住権が、例外的に終了する場合(存続期間内であるにもかかわらず終了する場合)は、以下のとおりです。
①配偶者が居住建物に係る配偶者居住権を取得したとき(民法1039条)。
②配偶者の死亡(民法1041条、597条3項)。
③配偶者の義務違反に対する、居住建物所有者の消滅の意思表示(民法1038条)。
④相続又は遺贈により居住建物を取得した者が第三者に譲渡した場合で、当該第三者から明渡し請求を受けた場合(なお、この場合、配偶者は居住建物取得者に対して債務不履行に基づく損害賠償請求をすることは可能です。民法1037条2項参照。)
⑤居住建物の全部が滅失その他の事由により使用することができなくなったとき(民法1041条、616条の2)。
3 配偶者短期居住権の成立要件:1つの基本的要件と3つの補足的要件
⑴ 基本的要件
配偶者短期居住権の成立要件は、以下のとおりです。他の相続人の承諾や、被相続人の承諾などは要件になっていませんので、他の相続人の承諾や、被相続人の承諾は不要です。基本的には、相続人の配偶者が被相続人の財産に属した建物に相続開始の時に無償で居住していれば、成立します。
なお、配偶者が相続放棄をしないことは要件になっていません。よって、仮に配偶者が相続放棄をしても、配偶者に配偶者短期居有権が認められます。
【基本的要件】
・被相続人の配偶者が被相続人の財産に属した建物に相続開始の時に無償で居住していたこと(被相続人の許諾を得ていたことや、同居していたことは要件ではありません)。
⑵ 3つの補足的要件
【補足的要件】
①配偶者が、相続開始時に居住建物に係る配偶者居住権を取得しないこと(なお、配偶者は配偶者居住権を取得した場合、配偶者居住権に基づき居住ができます。)。
②配偶者に相続人の欠格事由(民法891条)がないこと。
③配偶者が廃除によってその相続権を失った者でないこと。
相続人の欠格事由や、廃除は、それぞれ以下のリンク先をご参照下さい。
4 存続期間中の配偶者の主な4つの義務
存続期間中の配偶者の主な義務は以下のとおりです。
なお、配偶者の義務違反による損害賠償は、配偶者から返還を受けた時から1年以内に請求しなければならず、返還を受けた時から1年を経過するまでは時効は完成しません(民法1041条、600条)。
①従前の用法に従い、居住建物の使用及び収益に善管注意義務を負います(民法1038条1項)。
②配偶者短期居住権を譲渡できません(民法1041条、1032条2項)。
③居住建物の所有者の承諾を得なければ、第三者に居住建物の使用をさせることができません(民法1038条2項)。
④居住建物が修繕を要するとき(配偶者が自らその修繕をするときを除く)、又は居住建物について権利を主張する者があるとき、配偶者は、居住建物所有者に対し、遅滞なくその旨を通知しなければなりません(居住建物所有者が既に知っているときは除きます)(民法1041条、1033条3項)。
5 存続期間中の費用負担
⑴ 配偶者は、賃料の負担はありませんが、通常の必要費(修繕費用など)は負担します。
・配偶者は、存続期間中、賃料を負担する必要はありませんが、通常の必要費用は負担します(民法1041条、1034条1項)。通常の必要費とは修繕費用や固定資産税などを指します。配偶者が負担すべき費用は、配偶者から返還を受けた時から1年以内に請求しなければならず、返還を受けた時から1年を経過するまでは時効は完成しません(民法1041条、600条)
⑵ 修繕については、やや詳細に定めがあります。
・居住建物が修繕を要するとき(配偶者が自らその修繕をするときを除く)、配偶者は、居住建物所有者に対し、遅滞なくその旨を通知しなければなりません(居住建物所有者が既に知っているときは除きます)(民法1041条、1033条3項)。
・配偶者は、居住建物の使用及び収益に必要な修繕をすることができます(民法1041条、1033条1項)。通常の必要費は、配偶者が負担します(民法1041条、1034条1項)。
・居住建物の修繕が必要である場合において、配偶者が相当の期間内に必要な修繕をしないときは、居住建物の所有者は、その修繕をすることができます(民法1041条、1033条2項)。
⑶ 災害等の対策費用や有益費について
災害等の対策費用や有益費について、配偶者が支出した場合、その価格が現存する場合、建物所有者の選択により、建物所有者に支出額又は増加額を償還請求できます。
なお、裁判所は、有益費について、建物所有者の請求により、その償還について相当の期限を許与することができます。(民法1041条、1034条2項、583条2項、196条)
6 配偶者が居住建物を返還する際の主な2つの義務
配偶者は、配偶者居住権を取得したときを除き、配偶者短期居住権の消滅により居住建物の返還をしなければなりません(配偶者が居住建物について共有持分を有する場合は除きます)(民法1040条1項)。
この場合の配偶者の主な義務は以下のとおりです。
①配偶者は、相続開始後に附属させた物がある場合、附属させた物を収去する義務を負います。ただし、借用物から分離することができない物又は分離するのに過分の費用を要する物については、この限りでありません(民法1040条2項、599条1項)。なお、配偶者は、相続開始後に附属させた物を収去することができます(民法1040条2項、599条2項)。
②配偶者は、通常の使用及び収益によって生じた賃借物の損耗並びに賃借物の経年変化及び、損傷が配偶者の責めに帰することができない事由によるものであるときを除き、相続開始後に生じた損傷を原状に復する義務を負います(民法1040条2項、621条)。