このページでは、生命保険金、死亡退職金、ゴルフ会員権の相続における取扱いについてまとめています。
生命保険金、死亡退職金、ゴルフ会員権相続の対象になる場合と、受取人(承継人)固有の財産になる場合があります。また、相続財産にならない(=受取人固有の財産になる)としても、遺産分割協議の際に考慮に入れられる(=特別受益となる)というケースもあります。
少々わかりにくいところです。

1 生命保険金が相続財産となるか否かは、保険金の「受取人」として誰を指定しているかで決まります。

⑴ 受取人が、被相続人以外の特定の者の場合

原則として、当該指定された者の固有の権利となります(=相続財産に含まれません)。特別受益としても考慮する必要はないと解されます。

但し、保険金受取人である相続人とその他の相続人との間に生ずる不公平が民法903条の趣旨に照らし到底是認することができないほどに著しいものであると評価すべき特段の事情が存する場合は特別受益に準じて持戻しの対象になります(=特別受益と同様に、遺産分割協議において考慮されます)。この場合の、特段の事情の有無は、保険金の額、この額の遺産の総額に対する比率のほか、同居の有無、被相続人の介護等に対する貢献の度合いなどの保険金受取人である相続人及び他の相続人と被相続人との関係、各相続人の生活実態等の諸般の事情を総合考慮して判断すべきとされています(最決H16.10.29)。

かかる基準を当てはめた結果、相続財産に含まれないとした裁判例としては最決H16.10.29大阪家堺支審H18.3.22広島高決R4.2.25があります。一方で、相続財産に含まれるとした裁判例としては名古屋高決H18.3.27、東京高決H17.10.27などがあります。

なお、受取人が、被相続人より先に死亡したとき、保険約款に別段の定めがない場合、保険受取人の相続人全員のうち被保険者死亡時に生存する者が、法定相続分の割合でなく平等の割合で保険金受取人となると解されます(保険法46条、最判H5.9.7)。被相続人が受取人の再指定をするのが一般的ですので、再指定前に被相続人が死亡した場合にのみ問題となります。

⑵ 受取人が、「相続人」とされている場合

受取人を「相続人」とする指定は、特段の事情のない限り、相続人が保険金を受け取るべき権利の割合を相続分の割合によるとする旨の指定も含まれているものと解するのが相当とされています(最判H6.7.18)。よって、相続人は、原則として法定相続分の割合で保険金を受取る権利を有します(遺産分割の対象にはなりません)

自己の所有財産の全部を相続人でない者に遺贈する旨の遺言があっても、生命保険金を受取る権利は相続人の固有財産となります(最三小判S40.2.2)。

相続放棄をしても、生命保険の受取人としての地位に影響はないと解されいます(神戸地尼崎支H26.12.16、東京地判S60.10.25、横浜地判H元.1.30)。すなわち、相続放棄をしても、生命保険金を受取る地位を失うことはありません。

⑶ 受取人が指定されていない場合

約款で「相続人」に支払うとなっているのが一般的です。その場合、上記「相続人」と同じです(遺産分割の対象になりません)。(最判S48.6.29

⑷ 受取人として被相続人が指定されている場合

この場合は、相続財産に含まれます。

2 死亡退職金

⑴ 相続財産とはならないことが一般的です。

退職金支給規定法令により、遺族が直接会社に対する退職金請求権を有するため、相続財産とならないことが一般的です。
退職金規程の定め等により受給権者固有の権利としたものとして最判S55.11.27、最二小判S58.10.14などがあります。なお、私立大学の退職金規程で職員の死亡退職金を「遺族に支給する」とのみ定めている場合、その受給権者は、相続人ではなく、職員の死亡の当時、主としてその収入により生計を維持していた配偶者(届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にある者を含む。)が第一順位の受給権者となるとした判例があります(最判S60.1.31)。

死亡退職金支給規程がない場合も、機関決定として特定の者に支給された場合は、当該受給者固有の権利になると解されています(最判S62.3.3)。

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死亡退職金の支給規程のない財団法人において、理事長の死亡後同人の配偶者に支給する旨の決定をして支払われた死亡退職金につき、特段の事情のない限り、相続財産に属するものではなく、配偶者個人に属するものと認めるべきものとした原審の認定判断は相当とした判例。

⑵ 特別受益として考慮される場合があります。

なお、受給者固有の権利とすることで、相続人間の公平を欠く場合、生命保険金と同様に、特別受益となる可能性はあります(特別受益になるとしたものとして、大阪家審S51.11.25があります。)。

3 ゴルフ会員権

ゴルフ会員権は、以下のように整理されます。

⑴ 会則で相続を否定している場合/社団会員制のゴルフ会員権は、相続の対象になりません。

相続の対象となりません(最判S53.6.16)。
仮に、預託金返還請求が発生したりや、滞納会費の支払債務が残っていれば、個別に相続の対象になります。

⑵ 会則で相続が肯定されている場合/株主会員制のゴルフ会員権は、相続の対象になります。

会則で相続が肯定されている場合/株主会員制のゴルフ会員権は、相続の対象になります(参考判例:最判H9.5.27)。

最判H9.5.27 会則で会員の死亡後6か月以内に届出をした相続人が会員の地位を承認し得ると定めがある場合であっても、届出期間は遺産分割協議が成立したときから起算すべきであるとした判例

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甲が加入していたYが経営するゴルフクラブの会則には、相続による会員の地位の承継に関し、(1)会員が死亡したときは、相続人は、6箇月以内に、①預託金の返還手続、②相続人のうち一名への名義書換手続、③第三者への会員資格の譲渡のいずれかの手続を選択して理事長に届け出なければならない、(2)相続人が右の期間内に右の届出をしないときは、Yは預託金の返還手続をとる、(3)相続人が②又は③の手続を選択した場合には、会員たる資格が譲渡された場合に準じ、事前にクラブの理事会及びYの取締役会の承認を得なければならない旨を定めていました。甲死亡後の相続人間で、Xがクラブの会員権を取得する旨の遺産分割協議が整った時点で死亡から6か月を経過していたことから、YはXからの名義書換請求を拒否したことから、XがYに名義書換を求めて提訴したのが本件です。
本判決は「本件クラブの会員権について、本件規則所定の6箇月の起算点を会員の死亡時とし、6箇月の期間経過後は相続人は預託金の返還を求める権利のみを有すると解することは、遺産分割に関する協議が早期に調わなかった会員の相続人に著しい財産上の不利益を一方的に被らせることになり、相当とはいえない。したがって、本件規則は、死亡した会員の相続人が複数いる場合には、相続人の間で遺産分割に関する協議が成立した後6箇月以内に右規則所定の手続をすべき旨を定めたものと解するのが相当である。」としてXの請求を認めました。