このページでは、相続における契約上の地位の取扱について整理しています。

相続人は、被相続人が有していた契約上の地位(権利・義務)を承継するのが原則です。
ただし、法律上又は契約上別段の定めにより終了する場合もあります。
やや話がずれますが、被相続人所有不動産の同居者の居住権の保護及び、無権代理と相続についても、ここで説明をしています。

1 相続における契約上の地位の取扱(まとめ)

相続人は、被相続人が有していた契約上の地位(権利・義務)を承継するのが原則です。
ただし、法律上又は契約上別段の定めにより終了する場合もあります。
注意すべき類型を整理をすると以下のようになります。

⑴ (原則として)被相続人の死亡により法律上、消滅ないし契約が終了するもの

代理権(本人又は代理人の死亡、民法111条
委任契約(委任者又は住人者の死亡、民法653条
組合契約(組合員の死亡により脱退、民法679条
定期贈与(贈与者又は受贈者の死亡、民法552条
持分会社の社員権(会社法607条1項3号
使用貸借の貸主の地位(民法597条3項
ただし、建物所有目的の土地の使用貸借(東京地判H5.9.14)、建物の使用貸借(東京高判H13.4.18)につき、借主の死亡により使用貸借が終了しないとした裁判例があります。

⑵ 不動産の賃借人の地位について

不動産の賃借人の地位については、借地権、建物の賃借権ともに財産的な価値が高いこともあり、原則として相続の対象になると考えられています。

なお、借地権を、一人の相続人が単独で取得する場合、土地所有者の承諾は不要ですが(最判S29.10.7)、複数の相続人が分割取得する場合は地主の承諾が必要と考えられます。

また、ただし、公営住宅の使用権は、相続の対象にならないとされています(最判H2.10.18)。

なお、親族間の土地の使用貸借契約について、借主が死亡したことにより民法597条3項に基づき当該使用貸借が終了したとは認められないとしつつ、使用貸借の当事者間の人的関係が悪化しにより信頼関係が破壊されているとして、民法598条1項の類推適用による貸主の使用貸借の解除を認めた裁判例があります(名古屋高判R2.1.16)。 

2 被相続人所有不動産の同居者の居住権

被相続人が全部ないし一部所有している不動産に同居していた相続人/内縁配偶者等の居住権が一定の範囲で保護されるケースがあります。

⑴ 被相続人の所有する建物に被相続人と同居していた相続人の建物使用貸借権

相続開始前から被相続人の許諾を得て遺産である建物において被相続人と同居してきた相続人は、特段の事情のない限り、被相続人との間において、被相続人が死亡し相続が開始した後も、遺産分割により右建物の所有関係が最終的に確定するまでの間は、引き続き無償で使用させる旨の合意があったものと推認され、相続開始の時から少なくとも遺産分割終了までの間は、被相続人の地位を承継した他の相続人等が貸主となり、同居の相続人を借主とする使用貸借契約関係が存続するとされています(最判H8.12.17)。

「同居の相続人」のうち、被相続人の財産に属した建物に相続開始の時に無償で居住していた配偶者については、明文で一定期間居住建物に無償で居住できる権利が認められています(配偶者短期居住権 民法1037条~1041条)。配偶者短期居住権については以下のリンク先をご参照下さい。

⑵ 被相続人所有の建物に被相続人と同居していた内縁配偶者の居住権

相続人に家屋を使用しなければならない差し迫った必要がなく、一方内縁の夫・妻は家屋を明け渡すと相当重大な打撃を受けるおそれがある等の事情がある場合、相続人による内縁の妻・夫に対する家屋明渡請求は権利の濫用にあたり許されないとされています(最判S39.10.13東京地判H2.3.27、東京地判H9.10.3なども同旨。)。
法律構成は異なりますが、内縁の夫婦が同居していた内縁の夫所有の建物について、内縁の夫が死亡しその相続人が内縁の妻に対して建物の明渡し請求がされた事案で、内縁の妻が死亡するまで同人に無償で使用させる旨の使用貸借契約が黙示的に成立していたとして、請求を棄却した事例もあります(大阪高判H22.10.21)。

⑶ 内縁の夫婦による共有不動産の一方の死亡と他の相続人の関係

内縁の夫婦が共有する不動産を居住又は共同で使用してきたときは、特段の事情のない限り、一方が死亡した後は他方が当該不動産を単独で使用する旨の合意が成立していたものと推認されます(最判H10.2.26)。

3 無権代理と相続

無権代理行為と相続の関係をまとめると以下のとおりです。

⑴ 無権代理人が本人を相続した場合(被相続人:本人、相続人:無権代理人)

場合分け   結論(判例)
単独相続無権代理人が、本人を単独相続(他の相続人が全員放棄したため)した事案につき、「無権代理人が本人を相続し本人と代理人との資格が同一人に帰するにいたつた場合においては、本人が自ら法律行為をしたのと同様な法律上の地位を生じたものと解するのが相当であり・・・、この理は、無権代理人が本人の共同相続人相続人の一人であって他の相続人の相続放棄により単独で本人を相続した場合においても妥当すると解すべきである。」(最判S40.6.18)と、無権代理行為は有効になるとしました。
共同相続無権代理人が、本人を他の相続人と共同相続した事案につき「無権代理行為を追認する権利は、・・・共同相続人全員が共同してこれを行使しない限り、無権代理行為が有効となるものではないと解すべきである。そうすると、他の共同相続人全員が無権代理行為の追認をしている場合に無権代理人が追認を拒絶することは信義則上許されないとしても、他の共同相続人全員の追認がない限り、無権代理行為は、無権代理人の相続分に相当する部分においても、当然に有効となるものではない。」(最判H5.1.21)としました。

⑵ 本人が無権代理人を相続した場合(被相続人:無権代理人、相続人:本人)

判例は、本人が、無権代理人を相続した事案につき、「相続人たる本人が被相続人の無権代理行為の追認を拒絶しても、 何ら信義に反するところはないから、被相続人の無権代理行為は一般に本人の相続により当然有効となるものではないと解するのが相当である。」(最判S37.4.20)としました。もっとも、この場合、仮に追認拒絶をしたとしても、「民法117条による無権代理人の債務が相続の対象となることは明らかであつて、・・・本人は相続により無権代理人の右債務を承継するのであり、本人として無権代理行為の追認を拒絶できる地位にあつたからといつて右債務を免れることはできないと解すべきである。まして、無権代理人を相続した共同相続人相続人のうちの一人が本人であるからといつて、本人以外の相続人が無権代理人の債務を相続しないとか債務を免れうると解すべき理由はない。」とされています(最判S48.7.3)。