このページでは、相続手続における、系譜、祭具及び墳墓の所有権、遺骨の承継に関する裁判例を紹介しています。
系譜、祭具及び墳墓の所有権、遺骨は、祭祀を主宰すべき者が承継します。より具体的には、被相続人の指定、指定がなければ慣習に従って、慣習が明らかでないときは、家庭裁判所が定める者が承継するとされています(民法897条)。

1 相続発生時の承継者の考え方の確認

系譜、祭具及び墳墓の所有権は、祭祀を主宰すべき者が承継します。なお、墳墓の敷地である墓地も、墳墓に含まれるものと解されます(広島高判H12.8.25、大阪家審S52.8.29)。

具体的には被相続人の指定、指定がなければ慣習に従って、慣習が明らかでないときは、家庭裁判所が定める者が承継します(民法897条、家事事件手続法39条、別表第2の11項)。

2 裁判例

以下のような裁判例があります。

⑴ 祭祀承継者に関する裁判例

名古屋高判S59.4.19/長崎家諫早出審S62.8.31

生前の言動や、家族関係の状況などを踏まえて、被相続人による祭祀主宰者の指定があったとされた事例

東京高決H6.8.19

乙県の墓地や先妻の戒名の列記されている位牌については被相続人の先妻の子を、甲霊園の墓地や祖先の位牌等について後妻を祭祀承継者とした事例(2名を祭祀承継者としました)。

東京高決H18.4.19

祭祀承継者の判断基準として、承継候補者と被相続人との間の身分関係や事実上の生活関係などに加えて、被相続人との間の心情的な要素も含めて判断すべきとした裁判例

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祭祀承継者の判断基準について「承継候補者と被相続人との間の身分関係や事実上の生活関係,承継候補者と祭具等との間の場所的関係,祭具等の取得の目的や管理等の経緯,承継候補者の祭祀主宰の意思や能力,その他一切の事情(例えば利害関係人全員の生活状況及び意見等)を総合して判断すべきであるが,祖先の祭祀は今日もはや義務ではなく,死者に対する慕情,愛情,感謝の気持ちといった心情により行われるものであるから,被相続人と緊密な生活関係・親和関係にあって,被相続人に対し上記のような心情を最も強く持ち,他方,被相続人からみれば,同人が生存していたのであれば,おそらく指定したであろう者をその承継者と定めるのが相当である。」と説示しました。
名古屋高決H26.6.26

原審が二女を祭祀承継者としたのに対し長女に変更した事例

さいたま家審H26.6.30

長年被相続人と同居したことなどから、申立人である二男を祭祀承継者とした事例

東京家審H21.8.14

成年被後見人を、祭祀承継者とすることが相当とされた事例

⑵ 遺骨の帰属に関する裁判例

遺骨の帰属は条文上明確でないことから、争いになりやすいところです。以下のような裁判例があります。

東京高判S62.10.8

被相続人の配偶者と、被相続人の兄弟で遺骨の所有権が争いになり、遺骨の所有権は生存配偶者に原始的に帰属するとした裁判例

最判H元.7.18

遺骨について被相続人が主宰していた宗教研究クラブでなく、慣習に従って祭祀を主宰すべき被相続人の子に帰属するとした判例

東京家審H21.3.30

家裁は遺骨の取得者を祭祀財産に準じて指定することができるとした裁判例

大阪家審H28.1.22

親族でないが生活を共にしていたことがあり、旅行にも一緒に行っていた者を遺骨の取得者と認めた事例