このページでは、相続財産の範囲についてまとめています
注意が必要なのは、相続財産の範囲=遺産分割の範囲ではないことです。「相続財産」とは多義的に使われており、①相続開始時に被相続人に属していた一切の権利義務のうち、一身専属的な権利義務及び祭祀に関する権利義務を除いた財産を指す場合、②遺産分割の対象となる財産を指す場合、③みなし相続財産を指す場合があります。
少々難しいところではあります。以下、詳細を確認します。

1 「相続財産」とは?実は意味が一律ではないので注意が必要です。

⑴ 「相続財産」という言葉が使われる場面3つ

相続が発生した場合に処理すべき、「相続財産」という言葉は、以下の①~③のいずれの場合にも使われていますので、注意が必要です。

①相続開始時に被相続人(=亡くなった方)に属していた一切の権利義務のうち、一身専属的な権利義務及び祭祀に関する権利義務を除いたものを意味する場合(民法896条、897条など)
遺産分割の対象となる財産を意味する場合(民法898条など)。なお、相続財産という場合、相続債務(被相続人の負っていた債務)は含まないで考えるのが一般的ですが、相続人間の合意で、遺産分割の対象に加えて分割協議がされることもあります。
③遺産分割の算定基礎となる財産や、相続税の算定基礎となる財産である、みなし相続財産民法903条)を指す場合。

⑵ ①~③の「相続財産」の関係

「資産」については、①=②になることもありますが、①の相続財産の一部を対象とした遺贈死因贈与などがあるとずれます。
相続債務については、①には含まれますが、②には原則として含まれません。ただし、遺産分割の当事者で相続債務も含めて分割協議もできると解されていますので、その場合は、①と②は同じになることもあります。
③は①に、被相続人の死亡によって発生する、生命保険金死亡退職金などを含めて考えるものです。なお、遺族年金などは、受給者固有の権利とされていることが一般的と考えられます(東京家審S44.5.10、大阪家審S59.4.11)ので、③にも含まれないと考えられます。

⑶ 相続後に発生した財産等

相続後に発生した財産等は、①の相続財産にも含まれません。よって、原則として遺産分割の対象にはなりません(遺産分割協議の当事者間の合意で、遺産分割の対象にすることは可能性と考えられます)。

相続後に発生した財産等は、各相続人がその相続分に応じて分割単独債権を取得します(最一小判H17.9.8)。詳しくは以下のリンク先をご参照ください。

2 被相続人に属していた一切の権利義務のうち、一身専属的な権利義務及び祭祀に関する権利を除いた相続財産とは?

被相続人に属していた一切の権利義務のうち、一身専属的な権利義務及び祭祀に関する権利義務は、特殊な扱いがされています。そこで、これらを除いて、「相続財産」と呼ぶことが一般的です。

⑴ 一身専属的な権利義務

一身専属的な権利とは、被相続人に専属的な権利であり、被相続人の死亡により、権利は消滅し、相続の対象になりません(民法896条ただし書)。

民法上、死亡により権利義務が消滅するもの、つまり一身専属的な権利として定められているものは以下のようなものがあります。これらの契約上の地位は、相続人に承継されません。

・代理における本人及び代理人の地位(民法111条
・使用貸借契約における借主の地位(民法599条
・委任契約における委任者及び受任者の地位(民法653条
・組合契約における組合員の地位(民法679条

契約上の地位にかかる相続の取扱については、以下のリンク先をご参照下さい。

他にも、雇用契約の被雇用者の地位生活保護給付の受給権請求権者の地位なども、一身専属権利義務と考えられています。

離婚に伴う財産分与請求権、とりわけ扶養の権利義務民法887条)については争いがあります。
離婚に伴う財産分与請求権のうち、清算と慰謝料は相続の対象となり、扶養義務はならないという見解が有力のようです。裁判例としては、内縁関係の解消に伴う財産分与調停が不成立となり審判手続に移行した後、分与義務者が同手続中に死亡した場合、当該財産分与義務は相続の対象となるとしたものがあります(大阪高決H23.11.15)。

⑵ 祭祀に関する権利

祭祀に関する権利とは、系譜、祭具及び墳墓の所有権を指します。

祭祀に関する権利は原則として、祭祀を主宰すべき者が承継します祭祀に関する権利
具体的には以下の順番で検討されます祭祀に関する権利

①被相続人が指定した者
②指定がなければ慣習に従って
③慣習が明らかでないときは、家庭裁判所が定める者(家事事件手続法39条、別表第2の11項)。

系譜、祭具及び墳墓の所有権、遺骨についての裁判例は以下のリンク先をご参照ください。

⑶ 「被相続人に属していた一切の権利義務」に含まれるか否かが問題となる場合があります。

まれに、被相続人の遺産に含まれるか否かが問題となる場合があります。

例えば、被相続人以外の名義の預金は、原則として遺産には含まれません。しかし、被相続人が通帳や印鑑を管理していた実態などがあると、被相続人の遺産に含まれるとされる場合があります。

また、被相続人名義の財産(不動産)について、生前の生活状況や経済状況などから、内縁配偶者との共有を認めた裁判例がいくつか存在します(大阪高判S57.11.30、名古屋高判S58.6.15など)。
仮に、内縁配偶者との共有と認められた場合、内縁配偶者の所有部分は相続財産の対象からはずされることになります。

3 遺産分割の対象となる相続財産とは?

⑴ 相続財産に属する資産(権利)について

被相続人に属していた一切の資産(権利)のうち、一身専属的な権利及び祭祀に関する権利を除いた財産が、遺産分割協議の対象となることが一般的ですが、特定遺贈されたもの、死因贈与の対象となったもの、「相続させる」遺言により特定の相続人に承継されたものは、遺産分割協議の対象からは除かれます。

遺産分割協議の対象外となるものを整理すると以下のようになります。

対象物      承継者
特定遺贈の対象資産相続開始と同時に受遺者に権利が移転します。
死因贈与の対象資産相続開始と同時に受贈者に権利が移転します。
特定資産を「相続させる」遺言の対象資産相続開始と同時に当該相続人に権利が移転します(最判H3.4.19)。

また、上記以外の資産のうち可分債権は、預金を除き、相続開始と同時に法律上当然に分割されます(最判S29.4.8、最決H28.12.19)。従って、原則として可分債権は遺産分割協議の対象とはなりませんが、相続人間で、遺産分割協議の対象とすることも可能と解されています。

⑵ 被相続人の債務(相続債務)は、原則として遺産分割の対象となりません

原則として、各相続人が法定相続分に従って分割された債務を承継します(最判H21.3.24)。

ただし、遺産分割協議の当事者で、相続債務を遺産分割の対象とすることができるされていますが、その場合でも、債権者は、法定相続分に従って相続人に相続債務の履行を求めることができます。

相続における被相続人の債務の取扱について、詳しくは以下のリンク先をご参照下さい。

3 みなし相続財産

被相続人が有していた権利義務ではないものの、遺産分割協議の際に考慮すべき、あるいは相続税の計算を行う際の基礎財産に含まれるものがあります。それを、みなし相続財産と呼びます。

遺産分割協議の際に考慮すべきみなし相続財産としては、特別受益(民法903条)が典型的なものとなります。特別受益について詳しく知りたい方は以下のリンク先をご参照ください。

相続税の計算にあたってのみなし相続財産は、被相続人の死亡によって発生する生命保険金や死亡退職金が典型的なものとなります。もっとも、生命保険金や死亡退職金が相続財産となるか、みなし相続財産になるかは、内容によっても異なります。生命保険金、死亡退職金の、相続における取扱いについて詳しく知りたい方は以下のリンク先をご参照ください。