このページでは、相続税の申告手続(概説)について整理しています。申告期限内に遺産分割が未了の場合のデメリットについても触れています。
相続手続は、事実上相続税の申告手続を意識して行われることが多いので、申告手続について把握しておくことは重要です。
1 申告が不要な場合
遺産の総額が基礎控除以下の場合は、相続税の申告は不要です。配偶者の税額軽減規定等により納税額がないような場合でも、申告は必要になります。
基礎控除や、配偶者の税額控除などについては、以下のリンク先をご参照下さい。
相続人が意思無能力者であっても相続税の申告義務はあるとされています(最判H18.7.14)。
相続人間に相続財産の範囲や遺贈の効力等につき争いがあり、相続財産の全容が把握できない場合でも、相続財産が基礎控除額を超えることを相続人が認識し得るときは、相続税申告義務を免れないとされています(大阪高判H5.11.19)。
2 申告期限
⑴ 申告期限
申告期限は、相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月目の日(該当日が土曜日・日曜日や祝日の場合は翌営業日)です。包括遺贈の場合、遺産の帰属につき係争中であっても、自己のために包括遺贈のされていることおよび遺言者の死亡したことを知った日が起算日になると解されます(東京地判S47.4.4)。
期限内に提出がない場合税務署長が調査したところに基づき課税価格と税額を決定して徴求します。
⑵ 申告期限に遺産が未分割の場合
申告期限に遺産が未分割の場合、民法の規定する相続分又は包括遺贈の割合により相続財産を取得したとして、相続税を申告します(相続税法55条)。なお、当初の申告期間内に相続人間で相続分の譲渡があった場合、遺産分割が未了であっても、その譲渡を受けた分も含めて「相続分」として計算し納税する必要があります(最判H5.5.28)。
配偶者の税額軽減の特例等は利用できないといったデメリットがあります。申告期限に遺産が未分割の場合のデメリットについては、以下のリンク先にまとめましたので、ご参照下さい。
なお、遺産分割後に、相続税額が増額した者は修正申告、相続税額が減額した者は更正の請求、新たに申告納税義務が発生した者は期限後申告をそれぞれ行います。
3 申告書の提出方法
相続人全員が共同で提出することも、各自ばらばらに提出することも可能です(相続税法27条)。
原則として被相続人の死亡の時における住所地を所管する税務署に提出します(相続税法附則3条)。
4 相続税の納付について
原則として、申告書の提出期限までに金銭で、納付しなければなりません(相続税法33条、国税通則法34条)。期限までに納付ができなった場合は、延滞税の納付義務が発生します(国税通則法60条)
不動産を相続したような場合、期限内に相続税を納付することができな場合があります。
そのような場合、延納も可能ですが(相続税法38条~40条)、納期限までに金銭で納付することを困難とする事由が必要とされ、原則として担保が必要とされています。また、延納期間中は利子税が課税されます(相続税法52条)。
さらに、一定の要件を満たす場合、物納をすることができます(相続税法41条、42条、相続税評価額で収納されます)が、物納が認められるケースは多くはないようです。
5 連帯納付義務について
同一の被相続人の相続又は遺贈により財産を取得した者は、その相続にかかる相続税について、当該相続等により受けた利益額を限度として、連帯納付義務があります(相続税法34条)。連帯納付義務に関する裁判例として、以下のようなものがあります。
最判S55.7.1 連帯納税義務は、賦課決定通知書の送達など経ずに当然に成立するとした判例
東京地判H10.5.28 連帯納付義務には、第二次納税義務者のような補充性(本来の納税義務者に滞納処分を執行しても徴収すべき税額に不足すると認められる場合に限りその不足見込額を限度として認められるとするもの)は認められないとした裁判例(大阪地判H13.5.25、名古屋高金沢支判H17.9.21なども同旨)
6 修正申告/更正の請求
相続税額が申告で確定した税額よりも過大であることが判明した場合、修正申告を行います(国税通則法19条、相続税法31条)。
相続税額が申告した税額よりも少ないことが判明した場合、あるいは、申告後の事情により過少になった場合に、更正の請求により減額を求めます(国税通則法23条、相続税法32条)。