このページでは、遺産分割方法による相続税に対する影響(留意点)について整理しています。

遺産分割の方法には、現物分割、代償分割、換価分割がありますが、分割の方法によって相続税額がかわってくる可能性があります。遺産分割の方法については、以下のリンク先をご参照下さい。

1 現物分割の場合

現物分割の場合、各相続人・受遺者は、遺産分割により取得した財産の相続税評価額の割合に従って相続税を負担します。

原則的な方法になります。

2 代償分割の場合(相続税基本通達11の2-9、11の2-10)

⑴ 課税価格

代償財産を交付した者の課税価格:相続又は遺贈により取得した現物の財産の価額-交付した代償財産の価額

代償財産の交付を受けた者の課税価格:相続又は遺贈により取得した現物の財産の価額+交付を受けた代償財産の価額

代償金の金額は取引価格で算定されることが多いため、相続税評価額と取引価額がずれた場合、代償金をそのまま課税価格の計算に利用することは妥当でないことがあります。そこで、代償分割の対象となった財産が特定され、かつ、代償債務の額がその財産の代償分割の時における通常の取引価額を基として決定されている場合には、その代償債務の額に、代償分割の対象となった財産の相続開始の時における相続税評価額が代償分割の対象となった財産の代償分割の時において通常取引されると認められる価額に占める割合を掛けて求めた価額が「交付した(交付を受けた)代償財産の価額」とされています。

⑵ 留意点

代償財産として交付する財産が金銭以外の相続人固有の財産の場合には、交付した者は、その履行の時における時価によりその資産を譲渡したことになり、譲渡所得税が課税されます。一方、代償財産として当該財産を取得した者は、その履行があった時の時価により、その資産を取得したことになります。代償財産について譲渡益課税や、不動産取得税などが発生する可能性もあるので注意が必要です(所得税基本通達33-1の5

取得した遺産の額を超える代償金を支払った場合、贈与として扱われるので注意が必要です(東京地判H11.2.25)。

3 換価分割

売却金額が取得費を上回った場合、譲渡所得が発生します(東京高判H4.7.27)。

東京高反H4.7.27 遺産分割協議が代償分割か換価分割か争われた事例

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被相続人Aの相続人X及び甲らは、遺産に含まれる借地権につき、借地権売却手続と遺産分割協議を平行して進め、甲が当該不動産を取得して、Xは代償金を取得する内容の代償分割としての遺産分割協議書を作成したうえで、遺産分割協議成立の2日後に借地権をBに売却する譲渡契約が締結されました。Xが譲渡所得税を申告しなかったところ、Y税務署長が換価分割であるとして譲渡所得税の決定処分等を行ったため、Xが取消を求めて提訴しました。
1審が請求を棄却したため、Xが控訴しましたが、本判決も「代償分割は、特定の相続財産を複数の相続人に分割することによりもたらされる価値の激減を避けるために特定相続人が相続する場合、あるいは、特定の相続財産について特定の相続人が排他的に利用する便を図る必要があるために当該相続人が相続する場合等において、特定相続人が債務(代償金支払債務)を他の共同相続人に対して負担することにより行われるものである。・・・本件借地権については、本件分割協議が成立した時、既にBを買主として売却の合意が事実上成立していたものとみられ、Bから譲渡人は単独名義にするよう要望があったので、形式上甲が単独相続したことにし、その代金から必要経費等を差し引いた額を代償金の名目で各相続人に分配することにしたこと、Xに支払われた・・・円は右の売却代金額に基づいて決定され、分割協議書作成と同時にXに支払われていることを考え合わせると、本件分割協議は、分割協議書の文言にかかわらず、既に売却が決定していた本件借地権の代価を分割する趣旨でなされた実質上換価分割であるとするのが相当である。」として控訴を棄却しました。

換価分割の場合は、譲渡所得が問題となる場合が多いので注意が必要です。