このページでは、相続税の計算における基礎財産について整理しています。

相続税計算の基礎財産は、積極財産承継債務相法13条1項葬儀費用相法13条1項で計算されます。
積極財産には、生命保険金等のみなし相続財産なども含まれます
承継債務には、被相続人が納めなければならなかった税金で未納のものも含まれます
このページでは、積極財産の対象、承継債務の対象について、説明をしています。

1 相続税の基礎財産の計算における積極財産の対象

⑴ 被相続人が相続時点に所有していた資産

被相続人が相続時点に所有していた資産のうち、金銭に見積もることができるものは、原則としてすべて積極財産に含まれます。

無記名債券相続人(子供や配偶者など)名義の株式や預金などが、相続財産に含まれるか否かで税務当局と争われることがよくあります。比較的最近の裁判例として、大阪地判H23.12.16、東京高判H21.4.16、大阪地判H21.1.30、静岡地判H17.3.30、東京地判H30.4.24などがあります。また、潜在的な債権としては、所得税還付金が相続財産に含まれるとされた判例があります(最判H22.10.15)。
なお、相続人が相続財産に含まれることを知りながら仮装隠ぺいして相続税の申告をした場合は、重加算税が課されますので(国税通則法68条)、注意が必要です。

積極財産に含まれない、主な例外としては以下のようなものがあります(相続税法12条など)。
①墓所、霊びよう及び祭具並びにこれらに準ずるもの。なお、弁財天及び稲荷を祀った各祠の敷地部分が「準ずるもの」にあたるとした裁判例がある(東京地判H24.6.21
②宗教、慈善、学術、その他公益を目的とする事業を行う一定の個人などが相続や遺贈によって取得した財産で公益を目的とする事業に使われることが確実なもの
③相続や遺贈によって取得した財産で相続税の申告期限までに国又は地方公共団体や公益を目的とする事業を行う特定の法人に寄附したもの(争われたものとして、大阪高判H13.11.1などがあります。)
④相続や遺贈によってもらった金銭で、相続税の申告期限までに特定の公益信託の信託財産とするために支出したもの

⑵ (主な)みなし相続財産(相続税法3条、12条)

民法上の相続財産ではありませんが、相続税法上は相続財産とみなされ、相続税の課税がされるものがあります。
主なものとして、①生命保険金、②死亡退職金③会社から相続人に支払われる弔慰金④生命保険契約の権利があります。それぞれのみなし相続財産となる額は以下のとおりです。
なお、みなし相続財産は、民法上は相続財産でないことから、相続放棄をしても受領することが可能です。受領した場合、相続放棄はしていますが、相続税法の納付義務は負うことになります(この場合、民法上の相続人であることを前提とする非課税規定の適用はありません)。

①生命保険金
被相続人の死亡に伴い支払われる生命保険金、損害保険金等のうち、「被相続人が負担した保険料や掛金に対応する金額-500万円×法定相続人の数」がみなし相続財産となります。

保険金を年金等の形で受け取るものも含まれます。年金形式により受け取る権利を相続により承継した場合、当該年金受給権の現在価値が相続税の課税対象になり、年金を受給する段階では所得税は課税されないと考えられます(参考判例:最判H22.7.6)。
海外の保険業者から支払われるものも含まれます。
なお、受取人が保険料を負担していた場合は所得税が、被相続人でも受取人でもない者が保険料を負担していた場合は、みなし贈与税の問題となります。

②死亡退職金
被相続人の死亡に伴い支払われる「退職金等-500万円×法定相続人の数」ががみなし相続財産となります。

功労金や、年金等の形で受け取るものも含まれます

その支給額が被相続人の生前に確定しなかったもので、その死亡後3年以内に確定したものは、みなし相続財産に該当する扱いとなっています(相続税基本通達3-31)。相続発生後5年程度が経過した時点で、被相続人に対する退職金を支給したことにつき、相続税が課税されるか、相続人に対する所得税が課税されるかが争われた事案で、相続財産とみなされるためには、相続開始時に、少なくとも退職金が支給されることが、退職手当金支給規定その他明示または黙示の契約等により当然に予定され、かつ相続税として課税可能な期間内に支給額が確定しなくてはならない説示した判例があります(最判S47.12.26)。

③会社から相続人に支払われる弔慰金
業務上死亡の場合は最終報酬月額×36か月、業務外死亡の場合は最終報酬月額×6か月は非課税です。

④生命保険契約の権利
被相続人が保険料を負担していた、被相続人以外を被保険者とする生命保険契約の相続開始時の解約返戻金相当額

⑶ 生前贈与のうち、相続税が課税されるもの

生前贈与のうち、以下のものは相続税の基礎財産に入れる必要があります。なお対応する支払済みの贈与税は、相続税から控除されます。

相続時精算課税を適用して取得した贈与財産相続税法21条の15、21条の16

暦年課税を適用した贈与財産のうち、相続開始前3年以内のもの(相続税法19条1項)(参考裁判例:東京高判H14.9.18
贈与税の配偶者特例(被相続人との婚姻期間が20年以上である配偶者に対して、居住用不動産または金銭で2000万円までの贈与)を利用して贈与した財産(相法19条2項2号)や、教育資金管理契約に基づく贈与(措令40条の4の2第18項)などの贈与は含まれません。

2 積極財産から控除できる承継債務の範囲(相続税法13条、14条)

積極財産から控除できる承継債務の範囲は概要以下のとおりです(相続税法13条、14条)。

被相続人死亡時の債務で、確実と認められるもの。被相続人に対する所得税の支払債務なども対象となります。

連帯債務については、原則として負担すべき金額が明らかになっている部分に限られると解されます。

連帯保証は、債務者及び他の共同保証人に対して求償権を行使したり債権者に代位して物上担保権を行使してもなお債権の回収を受ける見込みのないことが明確になっていなければならないと解されます大阪高判H15.7.1東京高判H16.3.16)。相続税基本通達14-3は「保証債務については、控除しないこと。ただし、主たる債務者が弁済不能の状態にあるため、保証債務者がその債務を履行しなければならない場合で、かつ、主たる債務者に求償して返還を受ける見込みがない場合には、主たる債務者が弁済不能の部分の金額は、当該保証債務者の債務として控除すること。」としています。

大阪高判H15.7.1

裁判例の連帯保証債務の債務控除が認められる要件に関する説示部分を見る
連帯保証債務は、それが履行された場合でも、その履行による負担は、法律上は主たる債務者に対する求償権の行使によって補填されて解消する関係にあり、このような観点からみると、被相続人が連帯保証債務を負っているというだけでは、原則として法14条1項の「確実と認められる」債務を負っているということに直ちになるものではなく、相続開始の現況において、主たる債務者が資力を喪失して弁済不能の状態にあるため、主たる債務者に求償しても返還を受ける見込みがない場合にはじめて、「確実と認められる」債務であるとして債務控除の対象になるというべきであり、このような解釈基準は、結局のところ、評価基本通達205にいうところの「その他その回収が不可能又は著しく困難であると見込まれるとき」という基準とほとんど同様のものというべきである。

東京高判 H16.3.16

裁判例の連帯保証債務の債務控除が認められる要件に関する説示部分を見る
相続の開始時点を基準として、その履行すべき保証債務について主たる債務者及び他の共同保証人に対して求償権を行使したり債権者に代位して物上担保権を行使してもなお債権の回収を受ける見込みのないことが明確になっていなければならず、具体的には、主たる債務者及び他の共同保証人が破産、和議、会社更生あるいは強制執行等の手続開始を受け、又は事業閉鎖、行方不明、刑の執行等によって債務超過の状態が相当期間継続しながら、他からの融資を受ける見込みもなく、再起の目途が立たないとか、債権者に代位して物上担保権を行使しても優先債権者が存在するため担保価値が乏しいとかなどの事情によって事実上債権の全部又は一部の回収ができない状況にあることが客観的に認められるか否かで決せられるべきである。