このページでは、相続税の計算方法(概説)について整理しています。
相続手続は、事実上相続税の申告手続を意識して行われることが多いです。また相続が発生する前に相続税の概算額を把握しておき、相続税に備えることも重要です。
このページでは、相続税の計算方法(基本的部分)、相続法上の各制度と相続税の関係(例えば相続放棄と相続税の関係など)、遺産分割のやり直しと相続税の関係について、説明をしています。
なお、税法は、毎年のように変更がありますので、最新の情報は、税理士さん等に確認をして頂きますようお願い致します。ここでは、計算方法の概説をご説明致します。
1 相続税の計算方法
相続税の計算方法を確認しておきます。概要以下の順番で計算をしていきます。なお、相続税は、相続、遺贈、死因贈与、つまり相続発生を原因とした遺産の承継に対して課税されます。
⑴ 基礎財産額の計算
相続税計算の基礎財産=積極財産-承継債務(相続税法13条、14条)-葬儀費用(相法13条1項)です。
・積極財産には、生命保険金等のみなし相続財産なども含まれます
・承継債務には、被相続人が納めなければならなかった税金で未納のものも含まれます
・葬儀費用は、寺院・葬儀社・タクシー会社などへの支払いなどです。墓地、墓碑などの購入費用、香典返しの費用は含まれません。
基礎財産額の計算の詳細については、以下のリンク先をご参照下さい。
⑵ 課税財産額の計算
課税財産額=基礎財産額(⑴)-基礎控除額
基礎控除額は3000万円+600万円×法定相続人の数で計算されます。
法定相続人の数は、相続税法上は以下の計算式で算定します。
分類 | 法定相続人の人数 |
---|---|
相続放棄した者 | 相続放棄していない者として数に含める。 |
養子(相続税法15条2項) 以下の者は、実子として扱われます(相続税法15条3項、同施行令3条の2)。 ・特別養子縁組により養子となった者 ・被相続人の配偶者の実子で被相続人の養子となった者 ・被相続人の実子もしくは養子又はその直系卑属が相続開始前に死亡し、又は相続権を失ったためその者に代わり相続人になったその者の直系卑属 (被相続人の孫、曾孫など) | 被相続人に実子がいる場合: 1名まで数に含める。 被相続人が実子がいない場合: 2名まで数に含める |
課税価格の合計額が、基礎控除額に満たない場合は、原則として申告をする必要はありません。あくまでも基礎控除額に満たない場合だけであって、小規模宅地等の特例や、配偶者の税額軽減の特例などを利用した結果相続税を支払う必要がない場合は、申告は必要です。
⑶ 相続税額総額の計算
各相続人が法定相続分で相続したものとして各人の税額を計算して、これを合計します。
⑷ 各人の相続税按分
⑶で計算した相続税総額を各人が実際に相続した割合(承継した債務[1]及び葬式費用の負担額を差し引く)で按分します。
なお、冒頭記載したとおり、遺贈や死因贈与によって相続財産を取得した者にも、贈与税でなく相続税が課税されます(相続税法17条)。
⑸ 各人の相続税額の計算
⑷で計算した各人の相続税負担額に対して、控除等があればそれを計算します。よく使われる控除等は以下のとおりです。
区分 | 控除等の内容 |
---|---|
配偶者 | 法定相続分相当額と1億6000万円に対応する税額のいずれか大きい方を控除します(相続税法19条の2)。 |
配偶者、親、子以外 | 原則として2割増額が必要です(相続税法18条)。ただし、代襲相続人の場合は、2割増額はありません(相続税法18条1項括弧書)。 また、被相続人の直系卑属(代襲相続人を除く)が当該被相続人の養子となっている場合も、原則として含みません(相続税法18条2項)。 |
全員 | 被相続人の死亡前3年以内に受けた贈与に対する贈与税、相続時精算課税を適用して納めていた贈与税を控除します (相続税法19条1項、相続税法21条の15第3項、21条の16第4項) |
その他 | その他にいくつか税額控除があります(相続税法19条の2~20条の2他)。 |
主な税額控除や特例などは、以下のリンク先にまとめていますので、ご参照下さい。
⑹ 相続税対策は慎重に!
相続税対策として、上記⑴の積極財産の金額を下げる方法として、不動産を利用した相続税対策が取られることがあります。不動産は相続税評価額と時価が乖離することが多く(時価に比べて相続税評価額が低くなる)、かかる乖離を利用して相続税の基礎財産の金額を下げる効果が見込まれます。最近ではタワーマンションを使った方法なども行われているようです。
しかしながら、財産評価基本通達に基づく評価によらないことが相当であると認められるような特別の事情がある場合には、税務当局から、財産評価基本通達6(この通達の定めにより難い場合の評価)の規定を適用して、他の合理的な評価方式による時価の算定をすべきとされる場合もあるので注意が必要です。
【参考裁判例】
最判H5.10.28 相続開始前3年以内に取得したマンションを購入価額で評価することは、租税法律主義、遡及処罰の禁止及び平等原則に反せず、適法であるとした判例
最判R4.4.19 相続税の課税価格に算入される不動産の価額を財産基本通達による評価額を上回る価額とすることが相続税法22条に反せず、また、一定の要件を満たす場合租税負担の公平にも反しないとした裁判例
また、基礎控除額や死亡保険金・退職金の非課税枠を増やすために、養子縁組をして、法定相続人を増やすというこをされる方もいるようです。養子縁組をすることは、一定の節税効果が認められますが、節税目的だけで行うことは、税務否認リスクがあるだけではなく(相続税法63条は「養子の数を同項の相続人の数に算入することが、相続税の負担を不当に減少させる結果となると認められる場合においては、税務署長は、相続税についての更正又は決定に際し、税務署長の認めるところにより、当該養子の数を当該相続人の数に算入しないで相続税の課税価格・・・及び相続税額を計算することができる」とする包括的否認規定を定める。)、いたずらに相続人が増えることにより遺産分割協議でもめるなどの可能税もありますので、慎重に検討すべきといえます。
【参考裁判例】
最判H29.1.31 専ら相続税の節税のために養子縁組をする場合であっても,直ちに当該養子縁組について民法802条1号にいう「当事者間に縁組をする意思がないとき」に当たるとすることはできないとしました。
2 相続法上の各制度と、相続税の計算の関係について
遺産分割の方法や、相続税法上の各制度と相続税の関係をきちんと理解をしていないと、思わぬ課税を受けることがあります。以下、概要についてご説明を致します。
⑴ 遺産分割の方法(現物分割、代償分割、換価分割)と相続税の関係
遺産分割の方法には、現物分割、代償分割、換価分割がありますが、分割の方法によって相続税額がかわってくる可能性があります。
遺産分割の方法については、以下のリンク先をご参照下さい。
また、それぞれの分割方法における相続税法上の取扱については、以下のリンク先にまとめましたので、ご参照下さい。
⑵ 遺留分侵害額請求と相続税の関係について
相続税申告期限内に遺留分侵害額請求につき決着がつけば、各人が相続した相続財産の相続税評価額の割合に従って、相続税を申告し納付すれば足りますが、そうでない場合は、以下のように対応することになります。相続税申告後に遺留分減殺請求を受けた場合も同様です。
遺留分侵害額請求の手続中:侵害額請求がないものとして、受遺者、受益相続人は申告課税価格を計算して申告及び納税を行います(相続税基本通達11の2-4)。
遺留分侵害額請求の確定後は、侵害額請求を行った側と受けた側でそれぞれ以下のように対応します。
遺留分侵害額請求を行った側(遺留分権利者) | 相続税申告をしていない場合は、期限後申告(相続税法30条1項) 相続税申告をしていた場合は、修正申告(相続税法31条1項)をする必要があります。 適切に修正申告をしないと更正を受けることになります(相続税法35条3項) |
遺留分侵害額請求を受けた側(受遺者) | 遺留分減殺請求に応じて弁償をしたことにより相続税が過大になりますので、遺留分による減殺の請求に基づき返還すべき、又は弁償すべき額が確定したことを知った日の翌日から4ヶ月以内に、減額の更正の請求を行う必要があります(相続税法32条1項3号) |
なお、遺留分侵害額請求について、詳しく確認したい方は以下のリンク先をご参照下さい。
⑶ 寄与分(民法904条の2第1項)、特別の寄与制度(民法1050条)の税務上の取扱について
寄与分(民法904条の2第1項)、特別の寄与制度(民法1050条)とも、相続税が課税されると解されます(東京地判H14.1.22、国税庁HPのQAなど)。
⑷ 相続放棄と相続の関係について
相続放棄をしても被相続人からの遺贈を受けた場合、生命保険金等のみなし相続財産を取得した場合や、相続時精算課税の適用を受けていた場合には相続税の納税義務者となります。
この場合、生命保険金等の非課税(相続税法12条1項5号)、死亡退職金の非課税(相続税法12条1項6号)、債務控除(相続税法13条)、相次相続控除(相続税法20条)は適用されません。
3 遺産分割のやり直しと相続税の関係
遺産分割をやり直した場合に、相続税についての更正の請求が可能か否かで争われることがあります。
更正の請求を認めなかった裁判例として大阪地判H26.2.20が、認めた裁判例としては東京地判H21.2.27があります。認められない場合、新たな贈与や譲渡とされ、贈与税や譲渡所得税などが課税されることになります。
大阪地判H26.2.20 更正の請求が認められなかった事例
東京地判H21.2.27 更正の請求を認めた事例