このページでは、相続に関する主な紛争及び、その解決のための裁判所の手続についてまとめています。相続に関する争いは、裁判手続(訴訟)で解決すべきものと、調停審判で解決すべきものが混在しており、少々難解です。また、裁判手続で解決すべき事項は、審判では判断することができませんが、調停であれば成立することができる事項もあります。

1 裁判、審判、調停による解決の意味や関係

紛争類型ごとに検討する前に、まず、相続における紛争の裁判手続による解決方法を確認します。相続における紛争の裁判手続による解決方法としては、裁判(訴訟)、審判調停があります。

調停は当事者の話し合いによって解決する手続きです。当事者が合意すれば、相続人の身分関係の有無相続人の廃除など裁判所の判断によらなければならない事項を除けば、ある程度広い範囲で解決することが可能です。

審判裁判(訴訟)は、(家庭)裁判所が判断をするものですが、審判は非公開で口頭弁論はなく、家庭裁判所が事実調査をする範囲が広くなります。一方で、裁判は、当事者の口頭弁論を経て判決が出されます。審判には前提事項についての既判力が認められないため(最決S41.3.2)、前提事項に争いがある場合、裁判による決着を先行させることが一般的です。

最決S41.3.2審判手続きで前提事項を判断することの可否及び、その場合の既判力につき判示した判例

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「右遺産分割の請求、したがつて、これに関する審判は、相続権、相続財産等の存在を前提としてなされるものであり、それらはいずれも実体法上の権利関係であるから、その存否を終局的に確定するには、訴訟事項として対審公開の判決手続によらなければならない。しかし、それであるからといつて、家庭裁判所は、かかる前提たる法律関係につき当事者間に争があるときは、常に民事訴訟による判決の確定をまつてはじめて遺産分割の審判をなすべきものであるというのではなく、審判手続において右前提事項の存否を審理判断したうえで分割の処分を行うことは少しも差支えないというべきである。けだし、審判手続においてした右前提事項に関する判断には既判力が生じないから、これを争う当事者は、別に民事訴訟を提起して右前提たる権利関係の確定を求めることをなんら妨げられるものではなく、そして、その結果、判決によつて右前提たる権利の存在が否定されれば、分割の審判もその限度において効力を失うに至るものと解されるからである。」

2 遺言に関する紛争の裁判所の手続

遺言に関する紛争は、通常訴訟手続になります。

⑴ 遺言の効力に関する紛争

遺言の効力に関する紛争は、遺言無効確認訴訟になります(最判S47.2.15)。
なお、固有必要的共同訴訟(=相続人など関係者全員が参加しないと成立しない訴訟類型)ではありません(最判S56.9.11)。

⑵ 遺言の解釈に関する紛争

問題となっている部分に応じて、遺贈存在確認訴訟所有権移転登記訴訟などが考えられます。

2 相続人の範囲に関する紛争

⑴ 相続人たる身分関係の有無に関する紛争

人親子関係存否に関する紛争、認知(無効・取消)に関する紛争、婚姻の効力存否に関する紛争、養子縁組の効力に関する紛争などがあります。

訴訟事件として処理されます(人事訴訟法2条)。

⑵ 相続欠格事由(民法892条)の存否に関する紛争

相続権不存在確認訴訟(相続人の地位不存在確認訴訟)。なお、固有必要的共同訴訟(=相続人など関係者全員が参加しないと成立しない訴訟類型)です(最判H16.7.6、なお最判H22.3.16)。
調停前置主義家事事件手続法257条1項)が適用されます

⑶ 廃除(民法892条、893条)に関する紛争

廃除の調停、審判(民法892条、893条、家事事件手続法188条

3 相続財産の範囲に関する紛争

⑴ 遺産の範囲について争いがある場合は裁判(訴訟)手続で処理されます。

遺産確認訴訟(持分権確認訴訟)最判S61.3.13)などです。なお、固有必要的共同訴訟(=相続人など関係者全員が参加しないと成立しない訴訟類型)と解されています(最判H元.3.28、なお最判H9.3.14)。

調停前置主義が適用されます(家事事件手続法257条1項)。

⑵ 遺産からの使途不明金に関する紛争も裁判(訴訟)手続で処理されます。

遺産の範囲に関する紛争とはやや異なりますが、遺産の中にあるべ現金がないなど、使途不明金に関する紛争も裁判(訴訟)手続で処理されます。具体的には不当利得返還請求訴訟(損害賠償請求訴訟) などになります。
相続開始に被相続人Aの預金を甲が引き出していた場合は、Aの甲に対する不当利得返還請求権が各相続人に法定相続分に応じて帰属することになります。なお、甲は相続人に限りません(参考裁判例:高松高判H22.8.30、最判H4.9.22、東京高決H11.12.21)。
一方で、相続開始に相続人の1人又は数人により遺産に属する財産が処分されたときは、処分した相続人の同意を得ることなく、当該処分された財産が遺産の分割時に遺産として存在するものとみなして、遺産分割協議をすることが可能です(民法906条の2第2項)。遺産分割の対象とせず、他の相続人は準共有持分権を侵害されたとして、損害賠償または不当利得返還請求をすることも可能です。

4 遺産分割などに関連する紛争

⑴ 遺産分割に関する紛争

・協議がまとまる前であれば、調停・審判で解決する必要があります(具体的相続分の価額又は割合を求める訴えはできません。最判H12.2.24)。
・相続財産の評価に争いがある場合は鑑定に委ねます(家事事件手続法64条1項、258条1項

一方で、遺産分割協議後に遺産分割協議の効力や解釈に関して紛争になった場合は、裁判(訴訟)手続で処理されます。具体的には、遺産分割協議無効確認訴訟所有権移転登記請求訴訟などになります。

⑵ 特別受益の有無に関する紛争

調停・審判で解決する必要があります(特別受益該当性の確認を求める訴えはことはできません。最判H7.3.7)。

⑶ 寄与分の有無に関する紛争

調停・審判で解決する必要があります

⑷ 祭祀承継に関する紛争は、調停又は審判で処理されます。

祭祀承継に関する紛争は、祭祀承継者を定める調停・審判(家事事件手続法190条

5 管理費用の負担や遺産収益に関する争いは裁判(訴訟)手続により解決されます。

管理費用の負担、遺産収益、遺産債務に関する争いは裁判(訴訟)手続により解決されます。具体的には以下のとおりです。

分類          裁判における争い方
葬儀費用の負担立替金返還請求訴訟など
遺産管理費用の負担立替金返還請求訴訟など
遺産収益の帰属不当利得返還請求訴訟など
遺産債務の負担割合立替金返還請求訴訟など